内容のー部もしくは全部が変更されてる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
隣町、東川。
みなさんはどんなイメージがありますか?
写真の町、米どころ、アウトドア好きが集う、おしゃれなカフェがいっぱい、きれいな町並み、子育て世代に人気、移住者が多い、元気な飲食店や商店がたくさん、旭岳の雄大さ…こうして挙げていくとキリがなくなる訳ですが、人気の観光地「東川」では近年、地元産のワインが大変話題になっています。
わたし自身、週末ごとに豆腐や新鮮野菜を求めて東川を訪れ、もはや仕入れレベルで買い物しているのですが、ドライブがてらクラフト街道を通る度、山側にあるぶどう畑がずっと気になっていました。
東川町のぶどう作りが始まったのは1992年頃、果樹の育成振興と土地の有効活用のため、北海道ワインから萌木を無償で譲り受け、栽培研究を開始、町内農家の方が手掛けていらしたそうです。
そのぶどうは「大雪清流物語」という名前で販売されていましたが、当時は収量が少なかったため東川産以外のものを合わせていたそうです。
その後もぶどう栽培は続いていましたが、携わっていた農家の離農等で町が管理するようになり、2010年には東川町振興公社が圃場管理を委託されました。
東川で主に栽培されているぶどうは「セイベル13053」。この黒ぶどうは、赤ワイン用品種としては少々低い評価をうけがちですが、粒は小さめでも風味の凝縮した果実をつけ、耐寒性に優れており、収量も安定する品種と言われています。
転機が訪れたのは2013年春。
「町民に永く愛される」ワインづくりを目指し、中澤一行氏(ナカザワヴィンヤード)、ブルース・ガットラブ氏(10Rワイナリー)の指導を受け、東川産のぶどうのみを用いたワイン造りが本格的に始動します。
枝の刈り込みや「摘房」と呼ばれる間引きの仕方などなど、栽培法を改良した最初の年は2,920kgを収穫、東川産ぶどう100%ワインが2,820本瓶詰めされたのです。
完成したワインの名称は、ぶどうが育ったキトウシの山の麓にちなんで「キトウシ」と名付けられ、
エチケットにはキトウシにも生息し、昔から森の守り神として愛されてきたエゾフクロウがあしらわれました。
初リリースの折には「キトウシ」が大きな話題となり、以来、セイベルという品種になじみのなかった皆さんにも、毎年大変評判のよいものとなっています。
今回、案内してくださったのは東川振興公社、須田浩二さん。2014年から担当を務めていらっしゃいます。
現在は3区画からなっており、7線道路(クラフト街道)沿いにある通称7線、農業振興センターにある通称センター、そして東川小学校の近くにあるいきいき農場、こちらをこの順番に拝見させていただきました。
まずは7線。そうです、こちらがわたしが普段気になっていたヴィンヤード!
車から眺めていた頃には実際に足を踏み入れることが出来るとは思ってもいませんでしたので、心躍る瞬間、とはまさにこのこと。
収穫後ではありましたが、ちょっぴり残っていた果実を味見させていただき、その甘さに驚きました。
山の麓ということで水はけのよい山土、なだらかで風通しのよい南向き傾斜が特徴で、
0.9ヘクタールの7線では、ヨーロッパ品種のピノ・ノワール、シャルドネといったヨーロッパ品種も栽培されており、セイベルはおよそ900本、主に樹齢25年を超える老木からなりますが、はっきりした樹齢が不明なものもあり、頑丈で逞しい幹は、記録以上の歴史を感じさせてくれます。
次にお邪魔したのはセンター。
こちらは0.8ヘクタール、水はけと日当たりのよい平地で風通しもよく、比較的若いセイベルの樹が1,000本、白ぶどうの品種ポートランドなども栽培されています。
近くには色々な野菜の畑もあり、東川という土地の力や、育む大地のエネルギーを感じずにいられませんでした。こちらではポートランドの味見をさせていただき、甘さや香りを堪能しました。
最後に拝見したのはいきいき農場。
2,992本の樹々は整然と並び、圃場の名前通り、実に「いきいき」と葉を茂らせています。
実に珍しいロケーションで、すぐそばには小学校、ぶどうの樹の間からは住宅街も見えるほど、暮らしに近い場所に位置しています。
驚くべきは立地だけでなく、わずか2年目の圃場であるというのにも関わらず、770kgものセイベルが収穫されたというのです。
通常ですと、ぶどうは植樹から収穫までに3,4年以上と言われていることを鑑みるに、実にスピーディー、生育の早さに驚かされます。
なぜここまで成長が進んだのでしょう?この圃場が他と違う点を伺いました。
まずはこの場所が元水田だったということ。とても珍しいケースです。
稲作の役目を終えた田んぼから土を取り出し、平らにならして小高い畝を作ったところに、挿し木でぶどうが植えられています。水田跡地ですので水はけの良くない粘土質ではありますが、その上に土を盛ることで弱点を克服しています。
そして他の圃場と違う大きな点は、その畝に防草シートがかけられていること。
根元の黒い覆いは太陽の光を吸収し、熱を蓄え雑草が生えなくなるようにしてくれますが、その熱こそが成長促進にも繋がったのではないか、ということでした。
7線のぶどうにも同様に施されていますが、その土壌の違いはもちろん、日当たりの違いが更に大きいのではないでしょうか。
確かに、そっと触れてみると7線の地面とはまた違い、シートの中のあたたかさが伝わってきて、やわらかい感触とともにほんわかした気持ちになりました。
なるほど、他では類を見ない、いきいき農場ならではの特徴です。
もちろんいいことばかりではありません。
畝の高さの分、ぶどうが実る辺りのお手入れがしやすい位置といえますが、
成長が早いだけに、元気に伸びたつるや葉を切り落とすのは高所の作業となります。
また、水はけがよくないため、台風などの大雨の際には畝以外の通路が水浸しになったりするそうです。
これからの季節、凍害を防ぐために必要な積雪も、降雪量によっては畝の高さに到達しないことが考えられ、その折にはどこかから雪を持ってきてかぶせてあげなくてはならないかもしれません。
今年ご苦労されたことの中にもまた、この場所ならではの悩みがありました。
それは鳥害。
すぐ近くに住宅が立ち並ぶ、ということは黒いアイツ、そう「カラス」です。
さすが賢い彼らは、ヴェレゾン(色づき)の頃を狙ってやってきます。
わたしたちにも馴染みがあるカラスよけグッズ等も、最初は威嚇の効果があるそうですが、日を追う毎に攻撃してくる敵ではないと察し、徐々に距離を詰めては甘い実にありつこうと挑戦してくるため、網かけやワイヤーなどの知恵と工夫で切り抜けたそうです。今後のための新たな作戦を練っていらっしゃる須田さんの背中に、大切なぶどう達を守るという強い思いを感じました。
基本的には自然に任せることが殆どと言われるぶどう栽培には、当然ながら心配事がつきもの。三圃場三様、それぞれに合わせた観察や対策で、大切にはぐくまれていきます。
お邪魔したのは10月末、剪定作業に入り、これからやってくる厳しい季節を迎えるための準備が始まります。葉がすっかり落ち、枝の調整が終わった樹々もまた、実りの秋とはまた別の、美しい表情をみせてくれることでしょう。
事業としてぶどうを栽培に取り組んでいる東川町。
町とぶどう、ぶどうと地域住民の距離がとても近く、親しみやすさにおいては群を抜いています。
今年度は行われませんでしたが、通常ですと収穫時期にはボランティアによるぶどう収穫イベントも実施されています。(来年の秋にはぜひ再開されることを祈ってやみません)
ヴィンヤード見学の醍醐味はぶどうが実り、収穫前の10月上〜中旬頃かもしれませんが、芽吹きの頃からずっと見守っていくこともまた、ワイン好きにはたまりませんよね。
その年毎に様々な表情を見せてくれる樹々、日常のすぐくそばにあるヴィンヤードは一見の価値ありです。
その土地を踏んだ後に抜栓するワインはまた格別、味わいにさらなる愛着を感じることでしょう。
キトウシの圃場は時期等により見学が可能です。
ご希望の際はまず東川振興公社にお電話にて問い合わせてみてください。
待望の最新のヴィンテージ「Kitoushi2019」は、12月1日より発売となります。
東川町内の酒店やコンビニエスストアなどにて、1本2,500円(税込み)で販売され、
町内の一部飲食店でも提供される予定です。
(※本数に限りがあるため店舗等への確認が必要です。)
現地に行くのは難しいけれど入手したい!という方には、東川町が実施している株主優待制度、ふるさと納税のご利用をおすすめします。詳しくは公式サイトを御覧ください。
今回、3つの区画を拝見してあらためて感じたキトウシワインの一番の魅力は、セイベルというぶどうの力です。ワイン向けとしては人気があまりないと言われていますが、とんでもない誤解。現在も醸造に携わるガットラブ氏が「ワイン向けの有名品種に劣らない」と仰るだけあって、「キトウシ」のぶどうは今後もますます質が向上し、本来持っている可能性をさらに高めていくことでしょう。
セイベルでも、こんなに美味しいワインができることを多くの方に知ってほしい、
「浮気はしません、セイベル一本でいきます!」そう語る須田さんの来年の目標は
芳醇で後味の良い仕上がりになるようなワインのぶどうを5トンオーバーで収穫すること。
須田さんのお背中を拝見し、その日がやってくるのはそう遠くないであろうと確信しました。
取材の後にお話してくださった、びん詰めの時、光に照らして見えるワインレッドの美しさ、いつか皆さんにもお伝えできたらと思います。
湧水をたたえる町、東川。セイベルを愛する人々の手が育んだ「キトウシ」ワインは、間違いなくこの町の特産品のひとつです。
このワインが皆さんに愛されるように、という願いも込められたエチケットのエゾフクロウを愛でながら、町と共に育っていく「キトウシ」を是非一度味わってみてください。
株式会社東川振興公社
東川町西5号北44番地
0166-82-2632
https://www.kazokuryokoumura.jp
キトウシ2018
品種セイベル13053
製造過程 ステンレススチールタンクにて発酵・野生酵母100%21日間醸し。
補糖少々。圧縮機による低圧プレス。
発酵後の貯蔵:10%新樽、65%古樽、25%ステンレスタンクで11ヶ月
乳酸菌発酵は100%野生菌で。
澱引き、ブレンド少量の亜硫酸塩添加
無清澄剤、無濾過瓶詰め
残糖0.07gm./100ml
アルコール11.9%
おすすめの食べ物
鹿肉のロース、豚の角煮、シェパードパイ、トリッパのトマトソース煮込み、子羊のグリルなど伝統的な豚肉、鶏肉、羊肉料理など。また北海道チーズとの相性も抜群、
ジンギスカンとのペアリングもおすすめ。
テイスティングコメント
美しいルビー色と木苺、ザクロ、ハーブ、ミツロウ、レモンピールの香りを併せ持ちセイベルの上品さを演出している。口当たりは豊潤でミディアムボディ。後味は長く、酸のバランスが若干強くて良い。今飲んでも美味しいが少なくとも5年は熟成が期待できる。