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ふらのワイン。
お酒を飲めない方や、お酒は好きでもワインを召し上がる機会が少ない…という方でも、きっとご存知で、ふらのといえばワイン!と連想でき、工場見学のご経験がある方や店頭で目にしたことがあるという方も多く、誰しもあの特徴的なロゴ文字は目にしたことがあることでしょう。
1972年に誕生した「ぶどう果樹研究所」は北海道で2番目に古いワイナリーで、1978年から「ふらのワイン」の販売を開始してからは、国内外のコンクールで何度も受賞するなど、一大ブランドを築き上げ、冬の寒さが厳しい富良野盆地〜上川地方のぶどう栽培や、道産ワインの普及を長きに渡り牽引してきたリーダー的存在でもあります。
今回ご案内くださったのは、富良野市ぶどう果樹研究所、製造課長の高橋克幸さん。
頂戴したお名刺にはシニアワインアドバイザーの資格の他にも興味深い肩書が連なるスペシャリストで、実に知識が豊富で、また奥深く多岐にわたります。
気候風土がぶどうの栽培に適していた富良野市は、北海道と共同試験を行って、この地域ならではの生育法やオリジナルの管理を研究、48年の長きに渡り様々な取り組みを実践してきましたが、2000年頃、大きな転機が訪れました。
地球温暖化による気候変動が話題になり、赤ワインが健康に良いということで起こった第6次ワインブームが落ち着いた頃です。
ちょうどその重要な年に入職された高橋さんは岩見沢出身。道内の大学を卒業後、群馬県にある老舗の醤油メーカー「正田醤油」にて、醤油の醸造や商品開発までもを担っていらしたという経歴の持ち主で、富良野で醸造技術者を募集しているという恩師からの紹介で一念発起し、Uターン転職で富良野市にやってきました。
余談ですが、自治体がワインを製造・販売するこちらの皆さんは言ってみれば全員市役所の職員(すみません、全く知りませんでした)。
実は高橋さん、大学時代の就職活動でも公務員は射程範囲外で全く考えたこともなかったため、まず公務員試験の勉強に着手するところか始められたそうです。
さらに、それまでは特にワインが身近な生活ではなく、お酒自体強くはなかったとのことで、めでたく採用が決まってからは、いちから勉強に励む日々がはじまりました。
ワインブーム後の消費層の開拓や、新たな製品の開発が急務と言われていた当時、全くの白紙の状態の高橋さんが、ワイン造りにチャレンジすることとなったのです。
同じ頃、北海道のワイン業界全体でも転機となったことのひとつに、2002年に開設された三笠市の山崎ワイナリーさんが作ったワインが挙げられるかと思います。
これまでの道産ワインのイメージを大きく覆す仕上がりであることと、そして個人経営のワイナリーでこんなに素晴らしいワインができるのだ、という発見や新鮮な驚きが大変な話題となり、従来の製法や考え方から、新たな手法へシフトしていくという波が動き始めたのです。
醤油とワインでは発酵という点で似通ったことも多く、醸造過程においてはなんら違和感なくスタートを切った高橋さんですが、こと栽培においていは素人で、すべてが初めて触れる世界。
また歴史が浅い北海道のワイン造りは、ワイン用ぶどう栽培のお手本や専門家もなく、情報量が圧倒的に少ない中で、気になったことはとことん掘り下げ、追求してきました。
醸造の専門家である高橋さんは、大学時代の経験から微生物を扱う研究は得意中の得意。
既成概念がないという強みを武器に、なんでも自分の目で確かめ、どんなことも試してきたといいます。
そんな中、研究所として長年の経験から、きめ細やかな管理をしているのにもかかわらず、ぶどう自体が良くならないのはなぜか、品質が上がらないのはなぜなのか、という疑問を持ちました。
樹々の手入れをはじめ、地上でどんなに手厚く守ったり、ケアをしてもうまくいかないのならば、地下を改善しなくてはいけないのではないか?ということに気づき、そこから土壌についての興味を持ち、土作りへの学びを深める勉強を始められました。
土壌づくり、というのはただ肥料を与えることではありません。化学的な要因、物理的な要因など視野を広げる必要があります。
土が固くならず良い栄養がまわることが理想で、ぶどうにとってバランスの良いph値であれば病気や虫害も防ぐことができます。
根が呼吸をスムーズにし、必要な養分が行き渡ることでぶどうが健全に生育し、糖度ののった醸造に適した果実が実るわけですが、土壌づくりにおいてもやり方が重要で、樹々がどんなに育っても実りに結びつかない、葉ばかりが成長して実に栄養が行かない、といったことにならないよう、土壌を追求していくことで、今このぶどうに足りていないものは何か、ではそれをどう足していくか見極めることが大事だと高橋さんはおっしゃいます。この研究を活かしながら総合的にコントロールし、環境を整える取り組みを行うようになってから、枯れてしまう樹が格段に少なくなったそうです。品質改善や収量向上のために何ができるか、というのが常に重要なテーマとして捉え、現在土壌医検定2級の資格をお持ちの高橋さんは更に上を目指し深めていらっしゃいます。
同研究所でのワイン造りは販売と製造業務とがありますが、製造業務の中でも「栽培」「瓶詰め」「発酵管理」という3つの部門に分かれており、それぞれ繁忙期が違う中で連携を取りながら作業を行っています。
栽培部門は芽吹きの4月から収穫後11月の剪定作業までがピーク。
瓶詰め部門は在庫状況を見ながら、収穫シーズンにフレッシュなものを瓶詰めしたりと、
冬場は忙しくなりますが、樽に熟成中の製品管理や供給スケジュールなどを常に確認し、濾過など瓶詰め前の作業も担います。
発酵管理部門は収穫期の9〜11月、ぶどうの受け入れが始まってからが怒涛の日々となります。ぶどうの都合に合わせた仕事は、生き物を扱っているということでもあるため、公務員といえど土日などといったカレンダーは全く関係ないそうです。
(そしてそのすべての部門を統括なさっている高橋さん、多忙なこの時期お話を伺えたということは本当に貴重な経験でした!)
こういった一連の流通、工場管理業務はもちろんですが、研究所ではその他にも農家の指導という大きな役割があります。栽培時期から相談に乗ったり、新規就農者へのサポートや補助のこまかなあれこれを丁寧に行っています。
現在契約されている農家は21軒。6種類ぶどうの中から土壌にあったものを選定し育てています。
富良野市の農業振興が目的でもある研究所として、みなさんが収量を増やせるよう、あるいは質を高められるよう、データ分析や土壌調査、栽培指導を行い、基準を満たしたぶどうは全量買い上げして、結果的に農業収入が上がるということを実現させるため日々励んでいます。
研究所直営20ヘクタール、市内の生産農家30ヘクタール、合計50ヘクタールもの広大なぶどう畑の中で、清水山にある直営圃場では現在50種類のぶどうを栽培しています。
創業時から中心となっていたセイベルを始め、ヴィティス・ヴィニフェラ種も多く育てており、
気候の変化や流行を考えながら、いつどんなときにも対応できるように準備しています。
ぶどう品種の開発、交配は大変な作業で、商品に結びつくまで10年はかかる大仕事。
長年積み重ねてきても、なかなか新種を生み出すのは難しい分野で、品種改良とひとくちにいってもぶどうの場合は特に労力と時間がかかるため、公的機関では行わなくなりました。
高橋さん入職当時に所長をされていた方が農業専門だったこともあり、品種交配を集中して行っていた時期がありましたが、主力品種として採用されている「ふらの2号」というオリジナルは当時の努力の証、そこにたどり着くまでには途方に暮れるほどの道のりをたどってきたといいます。
ワイナリーでできることは限られる中で、常に全力を尽くしてきたという製造課の皆さんの思いが現在に脈々と受け継がれている素晴らしさを感じました。
時代というの変化していくものですが、よろこばれるぶどうもまたしかり、消費者の嗜好の変化は常に起こっており、そのニーズに対応していくことが肝要です。更に気候の変化から生まれるぶどうへの影響を見ながら、発想を変えていく必要があります。
現在の傾向は甘口からすっきりした辛口へ、濃いワインから自然派などやさしい味わいにシフトしている流れがあり、ピノ・ノワールが主流になってきている時代といえます。
気象面では、過去40年平均気温が右肩上がりで、確実に変化してきています。
平均気温が1度変わるだけで、ぶどうにとっての影響は計り知れないことを意味しますが、
そういった総てを念頭に、先読みしながら、時代にあったワインを生み出せるような引き出しは色々用意しておきたいと高橋さんは考えています。
シーンに合わせて楽しむことができるのがワインの大きな魅力のひとつですが、ワイン単体で楽しんだり、料理やメニューによって合わせ方をアレンジするのもまた一興です。
以前はお酒が得意でなく、グラス1杯で酔いがまわってしまった高橋さんですが、ゆっくりおしゃべりしながら、今ではボトル1本飲めるようになったそうで、お仕事柄、話題になったり注目されている各方面のワインにアンテナを張り、ソムリエやワインに詳しいお仲間と分析しながら、まんべんなく召し上がっているそうです。ワイン会や試飲会などで新たな楽しみ方も研究され、次の提案につなげていく様々な企画の中で、コラボレーションや、ご当地グルメとの組合わせなども行っています。
興味深かったのはスイーツとのマリアージュについて。富良野市でも人気の菓子店フラノデリスとのコラボ実施の際、トリュフオイルを用いたシフォンケーキとワインとのハーモニーが格別だったというエピソードには、大きな可能性を感じました。
最近では富良野飲料店組合の記念事業として「ふらのワインボール」といった試みが、市内40店舗で展開されています。ルールは至ってシンプル。アルコールとソーダを割って作るご当地ハイボールのワイン版のようなイメージで、それを基本にワイン銘柄やレシピは各店工夫を凝らしたものがたくさんあるそうです。芳醇な香りそのままに、のど越しよく飲みやすいふらのワインボールは、新たな楽しみ方を引き出しているのではないでしょうか。
旭川に住むわたし達からすると、町の特産品としてだけではなく、市民の生活の中にワインが定着している印象があります。旭川で言う日本酒の感覚に近いでしょうか。多くのお店で地酒を選ぶことができるのと同じように、普段の暮らしに自然と寄り添う地物のワインは、富良野市内のレストランや飲食店の多くで提供されており、より親しみやすいものに思えます。
とある日、その味わいや日常感を体験したく、富良野市字下御料のフレンチビストロ「ル・シュマン」を訪ねました。
ふらのワインは食中酒としても優秀で、お肉や魚との相性もよく、さっぱりとした味わいでありながら、ゆっくり香りの変化なども堪能できるという魅力にあふれています。
この日は白ワインのグラスをチョイス。メインは知床ポーク、そしてホタテとソイのハーモニーを堪能させていただきました。
近隣にお住まいのお客様でにぎわうお店で、地元のワインを地元のレストランで楽しめるという気軽さもまた、大きな魅力であると再認識しました。
ふらのワインは多くの酒屋やスーパーやネット販売等で入手可能ですが、直売所では工場限定品の取り扱いや試飲可能なワインもあり、大変おすすめです。
お伺いした日はちょうど、新酒の発売が始まったばかりでした。
フレッシュでフルーティな甘口で、毎年大変人気の商品です。他にも大人数に(または大酒飲みに)おすすめのマグナムボトルや、お子さんでも楽しめるぶどうサイダーやチョコレートなど、お土産にも喜ばれる品々が多数並んでいます。季節ごとに限定商品が販売されていますが、これからの季節、注目すべきは、なんといってもアイスワインでしょう。
「アイスワインfルージュ」は日本で一番最初に作られた、自然凍結による極甘口の赤ワインで、希少なデザートワインとして全国的にも大変人気を博しています。
リリース当初はミューラートルガウでスタートし、カナダやドイツといった名産地に習った白ワインでしたが、オリジナル品種のふらの2号で醸造するようになってから、上質さも相まって、ますます高い評判を集めるようになりました。
カナダのアイスワイン規格に準じ、マイナス8度の環境が24時間以上経過した後に収穫という条件をクリアしたぶどうだけを用います。凍結と融解を繰り返し、濃密な味わいになった果実は、糖度を表すBrix値が実に40を上回るそうです。通常のぶどうは20程ですので、なんと2倍の甘さ。
圃場の果実には、動物からまもるためのネットがかけられていますが、自然落下したぶどうを味見させていただくことが出来ました。
味わいはなんともいえない甘やか。種や皮の渋みも気にならず、贅沢でふくよかな甘味でぶどうの味がダイレクトに響きます。まさに本気を出したぶどうの貫禄でした。
このぶどうはもうしばらく樹になった状態を維持し、12月末〜1月中旬に収穫を予定しています。運が良ければ試食をする機会に恵まれるかもしれません。毎年ボランティアも募っているので興味がある方はHPを御覧になって確認してみてください。
※本年度は気温が下がる日が多く、12月20日の早朝より収穫となりました。
搾りたての果汁のBrix値はなんと48!!!なんと甘い果汁でしょう。
ぶどうを味見させていただきながら目についていたのは、畑のあちこちにある動物の小さな足跡。
近くの山から、たぬき、うさぎ、エゾシカ、あらいぐまがやってきて、さながら動物園だといいます。ピノ・ノワールの樹を好んで食べに来るという野うさぎから根を守るための覆いをかけ、圃場でうさぎを見つけた時には職員の方が追いかけて圃場から出したりと目が離せません。
現在、生育中の果実も、たぬきやアライグマの格好のごちそうです。これから雪が降り積もるシーズンですが、動物たちの手が届く高さにならないよう、ひとつひとつ丁寧に除雪作業を行い、収穫まで見守っていくのだそうです。
待望の2020fルージュは12月15日(火)リリース。富良野市内のみ、限定600本の販売となっています。シロップやハチミツのような濃厚でコクのある甘さに、酸味とのバランス心地よいワインにご興味がある方には、是非とも試していてほしい逸品です。
圃場から山々を見下ろす高橋さんの目には次のビジョンが写っています。
品質を上げ、安定した収量を保ち、地元の農業振興に貢献するということは大前提で、今後は観光地としてワインとの関わりや可能性を模索していく必要があります。
この地域には美しい花々があり、雄大な自然に囲まれています。温泉に宿泊施設、アクティビティといった体験に事欠くことは有りません。食材などの特産品にも恵まれ、様々なジャンルの料理が楽しめるグルメスポットも豊富なため、観光客、地元民問わず、多くの選択肢から好みのものと出会うことができるという申し分のない環境と言えるでしょう。その恩恵を最大限に活かした、ワインツーリズムという観点です。
観光地として十人十色の楽しみ方があり、その全てにおいて、このエリアで完結できるという強みがあるのは言うに及びません。富良野市としてはもちろん、空知・上川地方にひろがるこの大いなる魅力や財産を、まずは地域の人に知ってもらい、可能性や裾野を拡げていくこと、その役割を担いつつ、これまで以上に北海道ワインの普及に尽力されていく高橋さんの活躍や産業としての発展とその未来を、ずっと追いかけていきたい、そしてその一旦をわたしたちも担うことができるとしたら…それは最上の喜びです。
バレルふらの(白) 720ml
■品種:セイベル(5279)、ケルナー
■タイプ:やや辛口
「バレル(日本語で木樽)」の名のとおり樽で熟成させた1本。「バレルふらの赤」同様、フランス産のオーク樽(225L)で1年間熟成させました。ふらのワインの白ワインの中では最も辛口となり、爽やかな果実香と芳醇な樽の香りがバランスよく調和したワインです。
富良野市ぶどう果樹研究所
〒076-0048 富良野市清水山
Tel:0167-22-3242
Fax:0167-22-2513
http://www.furanowine.jp