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布教とともにポルトガルから我が国へもたらされたと言われている葡萄酒。1549年(天文18年)9月、この「赤き酒」西洋のワインを最初に口にしたのは薩摩藩の島津貴久公であるという記録が残っています。その後、戦国末期には織田信長に「チンタ酒(珍陀酒)」として親しまれ、豊臣秀吉、徳川家康らも、献上された南蛮酒を口にしたであろうと言われていますが、長らく敷かれた鎖国政策を経て、横浜港の開港とともに、日本人にも少しずつ知られるようになりました。国内で本格的にワイン原料用ぶどう栽培・醸造が始まったのは明治に入ってから。今から約140年ほど前の1874年(明治7年)、山田宥教(やまだひろのり)、詫間憲久(たくまのりひさ)が甲府にて本格的なワインを造りはじめたのが最初と言われています。その後、大久保利通ら推進のもと明治政府の殖産興行政策の一環として山梨、北海道、山形、茨城、神奈川などでワイン原料用ぶどうの試験栽培が行われ、続く1877年(明治10年)、同じく殖産興業政策立案の中心人物、前田正名(まえだまさな、のちの山梨県知事)の案内で、高野正誠(たかのまさなり、当時25歳)と土屋龍憲(つちやたつのり、当時19歳)の両名が、ワイン醸造習得の為、日本人で初めてフランスに渡り、伝習生としてシャンパーニュ地方の南端に位置するトロワ市にて研修を重ねました。自費で滞在を延長してまでも、仕込みから貯蔵法、蔵出しまで体験し、更にビールの製法やシャンパンや他の果実酒の製造法も学んでいたそうです。帰国後は日本固有種である甲州ぶどうで造る日本ワインにこだわり、1891年(明治24年)に勝沼町下岩崎にて、土屋龍憲を中心に「マルキ葡萄酒」を設立、土屋龍憲は「日本のワインぶどうの父」と呼ばれる新潟の川上善兵衛(かわかみぜんべえ)に、学んだ全てを伝授したとも言われており、まさしく、日本におけるワインの夜明けに貢献した人物です。今もなお山梨から日本ワインを牽引し続け、その可能性を追求している「まるき葡萄酒-Maruki Winery」は、日本において現存する最古のワイン醸造所なのです。
ひとつひとつの歴史にたくさんのストーリーがあり、みなさんに馴染みのある企業や人物が多数登場しますが、ここでは割愛。ご紹介しきれずかなり端折ったご説明になってしまいましたが、興味のある方はぜひ日本のワイン史を紐解いてみてください。
と、道北のワインをご紹介するのになぜ歴史から?山梨から?という始まりですが、今回ご紹介するワイナリーは、前出の土屋龍憲が設立した「まるき葡萄酒」が属しているGroup Raison(グループレゾン)が、北海道事業として中富良野町に新設したワイナリーなのです。
ドメーヌ・レゾンは2016年春、西中地区に32ヘクタールの「中富良野ヴィンヤード」と富良野市山部地区に8ヘクタールの「富良野ヴィンヤード」、あわせて40ヘクタールあまりの圃場からなり、古い木で5年目、畑を買ってぶどうを植えるところからスタートしました。圃場はすべて垣根仕立て、ヨーロッパの一般的なぶどう畑と同じしつらえです。
中富良野ではソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、ピノ・ノワール、リースリング、ゲヴュルツトラミネール、シャルドネ、ツヴァイゲルトレーベ、ケルナー、ミュラートゥルガウ、オーセロワの11種、富良野ではケルナー、ミュラー・トゥルガウ、ツヴァイゲルト・レーベ、シャルドネ、メルローといったヨーロッパ品種を栽培しつつ、余市など道内の原料用ぶどうの仕入れも行い、2019年よりワイン醸造をスタートさせています。
今回お話を伺ったのは醸造責任者の吉川啓太さん。二年目の仕込み真っ最中、真新しいワイナリー内の見学もさせていただきました。
吉川さんは愛知県出身。醸造家であり、ソムリエの資格もお持ちです。
ワーキングホリデーで訪れたオーストラリアでワイン造りを体験し感銘を受けたことがきっかけだそう。もともとお酒に興味はありましたが、醸造という現場を含め、日本では全く見たことがなかったそうで、景色が美しく広大な場所でワインを造ることに魅力を感じ、そういうところに携われたら、と夢を抱き、帰国後は迷うことなくワイン醸造の道を選びました。実際にワイン造りの経験を積みながら、山梨大学ワイン科学研究センターにて化学式やメカニズムといったものから官能・利き酒などの専門知識までも学ぶ、ワインフロンティアリーダー養成プログラムに参加、ワインの知識や技術に精通した醸造家を認定するワイン科学士としての称号を得ました。更にアメリカでも修行を重ねたという、まさにワインのプロフェッショナル。
ドメーヌ・レゾン新設の折に声がかかり、新たなチャレンジに挑むべく、北海道に移住を決めました。慌ただしく過ごされる中で最初に迎えた冬、着込んでも立っていられない寒さを体感し、山梨や愛知とは全く異なる気候に洗礼を受けましたが、春から秋にかけて湿度の体感がなくカラッとした北海道の暮らしは快適のようです。以前から主に醸造酒がお好きな吉川さんは常にアンテナを張られており、上富良野で最近話題のクラフトビールに興味を持たれたり、各地のワインを試したりと積極的で、さらに自分が作ったワインがどんなお料理に合うのか、といったことも考えながら日常からワインに親しまれ、お客様にも相性よいものを提案していけるよう、今後はシニアソムリエにも挑戦したい、と前向きに取り組まれています。
2020年度は40トンのぶどうが搬入され、ワインボトルの数にして40,000本分の仕込みを行いました。広く見通しの良い醸造所の中にはステンレスタンクが整然と配され、さらに上部には人が通れるスペースも設けられています。
一番大きなタンクは7,000リットルで(現在19基あり)、続いて6,000リットル、4,000リットル、3,000リットル、2,000リットル、1,000リットルといった容量のタンクが設置されています。タンク内の空気をより少なくし、酸化を防ぐために様々な大きさを揃えているのだそうです。最近ではじっくり果汁を凍結した甘口ワインを仕込んだばかり。ゆくゆくは自社のぶどう100%での稼働を目指しています。30hlのプレス機やこれだけの数のタンクが並ぶところを実際に拝見するのが初めてでしたが、硬質な輝きを放つ光景はいつまでも眺めていられる壮観さでした。タンク室の手前の部屋には仕込み中の樽がいくつも並び、その反対側には新品のフランス製オーク樽が積み上げられていました。未開封を見るのは初めてで、思わず欲しい!と口走ってしまいました(どこに置くのだ)。
他にも先進的な瓶詰めの機械やオーソドックスなバスケットプレス機など、大きな業務用機械に圧倒されっぱなしで、スパークリングワインが仕込まれているタンクやその周辺機器、温度管理のメーターなどを見せていただく頃には、興奮状態を通り過ぎ、挙動不審になる始末。ご迷惑にならないようあれこれ見学させていただきましたが、この時期は澱引き作業の真っ只中。また明るく清潔な倉庫ではエチケットのチェックなど、手作業での丁寧な確認を経て、製品になったワインが詰め込まれており、あとは出荷を待つばかりのダンボールが積み上げられていました。
スタッフの皆さんがいきいきと作業され、勢いというのか、上昇のエネルギーを感じずにはいられませんでした。
ドメーヌ・レゾンのモットーのひとつ、「サスティナブル」。
持続可能な生育環境を整えた作物づくりーそれは原料づくりから真摯に取り組み、常に素材に対する敬意を持ち、素材の持つポテンシャルを最大限に引き出すことで、「本質的な豊かさ」を追求していくことです。このドメーヌレゾンでもそのスタイルでぶどう栽培を行っており、それぞれの個性を最大限に引き出すため、人の手を加えることを必要最小限に押さえています。減農薬栽培といった環境にやさしい手法を取り入れていますが、圃場のお手入れや土作りに一役買っているのはなんとも愛らしいヤギたち。圃場を元気に走り回り、土を耕して、雑草を食み、排泄物は土の肥料になります。またぶどうの成長を支えるだけでなく、ヤギのお乳はヤギ石けんやソフトクリームに加工され、訪れたみなさんにおいしさをも提供してくれ、愛くるしい表情は営業宣伝部長としても頼もしい存在。ドメーヌ・レゾンになくてはならないアイドル達です。このワイナリーからリリースされるすべてのワインには、エチケットにこのエネルギー循環型モチーフがあしらわれ、まさにサスティナブルなデザインとなっています。シンボルマークの風船ヤギが気持ちよさそうに空に浮かび、最近ではコルクのデザインもこやぎが圃場を駆け回る様子を表したデザインに変わりました。
ちなみに大先輩のまるきワイナリーでは、その役目をヒツジが担っているのだそうです。
グループの特徴として、自社で醸造した製品を販売し、提案・提供まで網羅している点が挙げられますが、全国各地に自社圃場を持つだけでなく、宿泊施設やゴルフ場といったリゾート部門、レストランやショコラティエといったサービス・飲食部門、アパレル販売までもを手掛け、不動産部門も含め多岐にわたる事業展開を行っています。山形県米沢市には日本酒醸造で創業百五十年という歴史を持ちつつ、清酒とワイン醸造の両方を手掛ける「沖正宗」も擁していますが、ワイナリーがあるところには宿泊施設があり、自社のワイン、日本酒を味わいながら、美しい自然、素晴らしい景観とともにゆったり寛げるような仕組みになっています。
富良野市北の峰にあるホテル&コンドミニアム「一花 HITOHANA 」。ここはワイナリーを訪れたゲストのための別荘というコンセプトの宿泊施設で、ワイナリー稼働に先駆けて2018年12月に開業しました。ホテル内にはドメーヌレゾンのワインの試飲コーナーが設けられ、レストランでは自社製造のワインと地元食材のマリアージュを堪能することができます。宿泊客はワイナリーツアーや、季節ごとにブルーベリーの収穫体験、ヤギのミルクやり、エサやり体験など、ここならではのアクティビティを満喫することができます。
また、中富良野のワイナリーに併設しているのブティック(ショップ)は、夏季の通常営業の間、 カフェ&レストランとして、宿泊せずとも皆さんにご利用いただけるお店です。風通しの良いテラス席では、ぶどう畑や牧場、そして十勝岳を望む中富良野の景色が堪能でき、ドメーヌレゾンのワインだけでなく、系列グループのワイン、日本酒、スイーツやホテルで採用されているグッズなど、お土産に喜ばれそうな品々がとても豊富です。広々としたあたたかみあるカフェ店内、フードメニューは手軽に食すことができるバーガー類や、一花の料理長が監修したものをいただけます。いずれも提供されるお料理はすべて地産地消をテーマに、その土地、その季節ならではの味わいが大切に表現されています。中堅の酒造メーカーでこうした規模・業態で行っている企業は日本でも珍しいのではないでしょうか。
夏季には圃場や牧場で自由に過ごすやぎも、冬季の間は雪をしのぐハウスの中で暮らします。この日は運良くやぎたちに会うことができました。くりんくりんにカールした前髪がチャームポイントのイケメンやぎ、その名も「王子」(お世話係の方が米●●師に似ている、と紹介してくださったため、もうそうとしか見えない)、北海道の寒さに慣れていない本州育ちでセーターを着せる日もあるそうです。ちょっと照れくさそうな王子と対象的に、見慣れぬ人間に興味津々なのか、レディたちはとても人懐こく、次々と寄ってきてはニコニコと(そう見えるw)撫でさせてくれます。こんな大型の動物に触れるのは何年ぶりか、鳴き声もキュートでにぎやかに歓待してくれるみんなに心から癒やされました。やぎさんファンの方は、是非Instagramのフォローをおすすめします。お散歩の様子や日々の様子を知ることができます。
現在は一花、カフェ、ブティック、いずれも休業中ですが(春に再開予定)、一部の商品はウェブサイトにて購入できます。各グループ内の豊富なラインナップももちろんオーダー可能で、ワインもお料理も日本酒もショコラも、グループレゾンのおいしさを自宅でも味わえますので、おうち時間が増えている皆さんは、是非試してみてはいかがでしょう。
全世界的に温暖化が懸念されるようになって久しいですが、日本のワイン業界への影響も例外ではありません。年間平均気温の上昇がじわりと進むことで、本州の特に南方では夜になっても気温が下がらず、品種によってはぶどうの着色不良を起こすこともあるそうです。より品質の良い原料を求め、冷涼な土地を探すという傾向がワイン用ぶどうに於いて顕著で、北海道は生産地として大手企業から熱い視線を集めています。2019年にはフランスのブルゴーニュ地方で約300年の歴史を持つ”ドメーヌ・ド・モンティーユ”が函館市をあらたな産地に選び、ピノ・ノワール、シャルドネの苗を植えました。今後は醸造所の設立も視野に入れての日本進出、というニュースは記憶に新しいところ。遡って2018年には、国が地域ブランドを保護する「地理的表示(GI)」にて、ワインの産地として「北海道」が指定されたという話題もありました。ワインでの指定は「山梨」に次ぐ2例目で、一定の条件を満たせば商品の産地に「北海道」を表記できるようになったのです。北海道ワインが日本を代表するワインとして品質・知名度ともに向上していることもあり、今後ますます世界から注目され、多くのファンを増やすことでしょう。気候・土壌だけでなく自然環境や水の質も含め、これからは日本のワイン業界全体が、北海道におおいなる期待をしていく時代が来ている気配を強く感じています。
そんな北海道で新たな挑戦をし続けている吉川さんが醸すドメーヌレゾンのラインナップは多岐にわたりますが、2019年11月にリリースしたワイン3銘柄は、日本最大級と言われるさくらアワード2020でも栄え有ある賞を獲得。さらに2020年9月にはジャパン・ワイン・チャレンジで金賞、銅賞含め6銘柄が受賞しました。この地から、素晴らしい評価を集めるワインが次々と誕生しており、先日も中富良野ソーヴィニヨンブラン2020含む3銘柄がリリースされたばかり。北国の冷涼な地に実るぶどうならではの、しっかりとした爽やかな酸、フレッシュさが楽しめるみずみずしいワインに仕上がっているそうです。
今回はお目にかかることができませんでしたが、圃場担当で栽培の専門家である東出部長と連携し、質をさらに高め、品種やスタイルの違うワインを多くの方に親しんでもらえたら、と吉川さんは意欲を燃やします。第3回、4回でご紹介した多田ワイナリー、富良野市ぶどう果樹研究所との交流も盛んで、この地域の更なる発展を誓う皆さんの熱量に胸は高鳴るばかりです。次の機会には、中富良野、山部の両圃場をゆっくりと周りながら、ヤギミルク製品の生産工程なども見学させていただきたい!新緑の頃、展葉まぶしい圃場を駆け回るやぎ達に必ず会いに行きたいと思います。
中富良野ソーヴィニヨンブラン 2020 (辛口)
中富良野町の自社圃場で育てられたソーヴィニヨンブランを100%使用した白ワイン。
緑がかったイエローの色調に、ライム、若草を思わせるフルーティーなアロマが広がります。
冷涼な気候特有のシャープな酸味、力強い香りと果実味を持つ上質な白ワイン。
早めに収穫する事で、しっかりした爽やかな酸を残し、
よりフレッシュさを感じられるワインに仕上げました。
柑橘系の香りを引き出し、フレッシュな印象がでるような酵母を選び、
ソーヴィニヨンブランの品種特性を前面に出しました。
品種 自社圃場産ソーヴィニヨンブラン 100%
750ml アルコール12%
ドメーヌ・レゾン
〒071-0771 空知郡中富良野町東1線北4号
0167-44-3035
https://domaine-raison.com/