身近な施設や昔からあるけどここってナニ?という場所を、ライナー編集部が密着取材し紹介します
気になるあの施設へ潜入!
株式会社 須田製版 旭川支社
旭川市忠和5条8丁目3-1
TEL 0166-62-2266
札幌市に本社を構え、チラシやポスター・パンフレットなどを中心に、WEB制作や動画制作なども手掛ける総合印刷会社。大正12年に創業し、昨年100周年を迎えたばかりの老舗企業である。今年で開設から66年を迎える旭川支社には、道内3カ所にある印刷工場も備えている。普段何気なく見ているスーパーのチラシも、ここで作られているかもしれない。その制作のウラ側へ、いざ密着。
スーパーのチラシ制作、そのウラ側へ 自社一貫体制のクリエイティブ
会社全体で400人ほどの社員を抱え、この旭川支社では約100人が働いている。その半数以上が制作に関わる人員だという。なぜなら、同社が作るものはすべてがオーダーメード。スーパーのチラシだって、同じものはひとつとして存在しないのだ。「お客さんが作りたいものは千差万別。営業がその要望を汲み取り、目的に合わせたデザインや見せ方の工夫など、細やかな提案ができるのが強みです」と、旭川支社長の茶山さん。さらに、チラシだけでなくポップやリーフレットなどの案件も多いという。買い物の最中に見かけてつい手が伸びてしまう、「お買い得!」のアレだ。その他、イベントのポスターなども手掛けているので、きっとどこかで同社の制作物を見かけたことがあるはずだ。
たかがチラシ、されどチラシ
今回スポットを当てるチラシ制作は、専門のチームが担っている。他の制作物とは少し毛色が違う独特なデザインが求められるからだ。スーパーのチラシに関していえば、毎週末のセールに向けて、何種類もの案件を同時進行で進めている。膨大な情報量を見やすく、わかりやすく整理し、かつミスのないよう制作するのは、大変なプレッシャーと労力を要する。制作デザインやレイアウトを担う人、被写体がより魅力的に映るよう写真加工だけを担う人、校正(※1)を専門とする人など、適材適所で分業することで、常に高いクオリティのものを作り続けられる環境が整っていた。
デザイナーの工藤さんは、「1週間が無事に終わると、毎回達成感を感じます。すぐに捨てたりしないで、じっくり見て、味わってほしい!」と、切なる願いを込めて話してくれた。熱量たっぷりのその姿が、今でも印象に残る。
経験に勝るものなし 人の手に宿る信頼
印刷まで自社で一貫してできるという強みを裏で支えているのが、熟練の工員たちが従事する印刷部門。いよいよ、本丸に潜入だ。まず目の前に現れるのが輪転印刷機だ。スピードに特化し大量印刷ができる機械で、1時間でB4サイズなら約19万枚を印刷することができる。旭川市民全員に配るとしても、1時間半ほどで完成するとは驚き。1つ700kg以上の巨大なロール状の紙に高速でインクが乗せられていき、またたく間に刷り上がっていく様は壮観の一言。規定のサイズにカットされ、見慣れたチラシがどんどん積みあがっていく。ここからまた様々な人の手を経て、各家庭へ届けられていくのだ。
さらに奥へ進むと、今度は3台の機械がお出迎え。こちらは枚葉印刷機といって、小ロットの印刷物に対応している。輪転印刷機とは違って小回りがきくのが特徴で、紙の材質や厚み、色味なども細かく指定することができる。DTP(※2)専門のスタッフが在籍し、色の調整や細かな画像処理なんかもお手のもの。印刷物の色はCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の4色の組み合わせによって構成され、この配分によって様々な色を作り出している。
今ではほとんど機械で設定できるのだが、最終調整はやはり人の感覚が頼りだという。その日の温度や湿度によって、インクや紙の状態も変わってしまう。その微妙な差異を見分けられるのは、機械ではなく積み重ねてきた経験ということだろう。この色づくりこそ、印刷オペレーターの腕の見せどころだ。
「3~10年でやっと一人前。甘くない世界だからこそ、やりがいも大きいです。大事に見てもらえると嬉しいなあ」と、製造部の山本さんの言葉からは、印刷物に対する愛情が感じられた。
(※1) 校正=誤字脱字や文法のミス、構成や表記のゆれなどがないかチェックする作業のこと
(※2)DTP=Desktop Publishing (デスクトップパブリッシング)の略で、印刷物をパソコン上で作成し、編集や出力までを行うこと
さらに深部へ ルポ・あれこれ
紙にも、潤いを 保湿でトラブル予防
乾燥による静電気の発生は、ホコリの吸着や機械トラブルのもと。定期的にミストを散布し、湿度を一定に保っているのだ。取材の後、お肌がしっとりした気がするのは、気のせいではないかもしれない。
ここが原点、木製製版カメラ
モノクロ写真製版から始まった同社で、1950~80年代まで使用されていた製版カメラが、当時のまま保存されている。原版を作る写真植字機と一緒に玄関に置かれているので、長い歴史の一端を垣間見ることができる。
社員食堂と謎のアーカイブ
日当たりがよく開放感のある食堂にうらやましさを感じつつ、気になるのはInstagramにアップされる料理写真の数々。毎日欠かさず淡々と、写真とメニュー名だけが投稿されるのだが目的は不明。なんにせよ、うらやましい。
Instagram:@sudaseihan.asahikawa
編集後記
購買意欲を刺激し、見た人の行動まで変えてしまう。そんなチラシのウラ側には、締切に追われながらもクラフトマンシップを忘れない、長年培った「ものづくりの精神」が宿っていた。仕事に向かう真剣な眼差しはまさに「職人」。それぞれがそれぞれの職務を全うし、最大限の成果を出す。その精神が深く根付いているのが、100年続いてきた所以だろう。作り手の想いが詰まったチラシには、質量以上の重みがあるのかもしれない。
次回は5月頃に掲載予定
誰もが気になるあの施設に、密着します