身近にある施設や商品、催し物など様々な仕事の舞台裏に、ライナー編集部が密着しました
気になるあの施設へ潜入!
株式会社海洋化研
旭川市神居町富岡468
TEL 0166-62-6208
花火の製造から企画に演出、打ち上げまで行う、日本最北端・道内最大手の花火工場。旭川市内はもちろん道内で見る花火大会のほとんどが同社によるものだ。その数なんと年間150カ所。オリジナルの花火を作ることができるのも製造工場ならではの強み。「花火師」と呼ばれる21人の社員と、14人のアルバイトスタッフからなる少数精鋭で、学校祭などの小規模なものから数万人規模の花火大会まで手掛けている。
その一瞬に情熱を注ぐ 夏を背負う職人たちの姿
両親に手を引かれながら見た日、まだ友人だった恋人と見たあの日…いつかの記憶を辿ると鮮明によみがえる、夏の夜をロマンチックに彩る花火。そんな花火を作り、打ち上げまでを担う工場が旭川にある。お盆を過ぎるまでは毎週のように花火大会が控えており、まさに繁忙期の真っ只中。そんななか、工場長の山中直樹さんに話を聞くことができた。短い夏の風物詩、そのウラ側へいざ密着。
大輪の花へ一歩ずつ 日々の小さな積み重ね
神居町富沢方面へ車を走らせ、緑が生い茂る一本道の先にその工場は現れる。全貌が見えないほど敷地が広いため、工場長の山中さんの車で案内してもらった。オーディオからは「キル・ビル」のテーマソング。ロック好きかと思いきや、花火大会用の楽曲とのこと。目前に迫る花火大会のことを頭に置きながら、移動中もシミュレーションを欠かさない。曲が佳境に差し掛かったところで、花火玉の製造現場へ到着した。
黒々とした火薬の玉が、無数に天日干しされている。花火が破裂した時に光る「星」と呼ばれるものだ。セラミックの粒に火薬をまぶして乾燥させ、それを何度も繰り返しながら2~3週間かけて作る。直径2ミリほどから始まり、1.5センチほどまで徐々に粒を大きくしていく根気のいる作業だ。天日干しが不可欠なので、冬は作業ができない。そのため、製造は4月頃からはじめて夏本番の直前まで続く。星はあくまでパーツに過ぎず、花火玉にするための工程はまだまだ先が長い。夜空に輝くあの数秒にたどり着くまで、途方もない時間と労力がかかっているのだ。
職人であり仕掛け人 夜空を彩る演出家
製造だけでなく、打ち上げの構成や演出を考えるのも花火師の大事な仕事。丹精こめて作った花火をどう組み合わせるか、想像したものをプログラミングし、点火装置にダウンロードすることで、その通りに打ち上げられていく。構成が決まると、玉数やサイズが記載された企画書を作り、使用する花火玉を集めていく作業へ。
花火玉が保管されている火薬庫では、週末に向けてピッキング作業が行われていた。企画書を見ながら、在庫をひとつずつチェックしている。ピーク直前の火薬庫は、約9万発の花火玉が今か今かとその時を静かに待っていた。
常に危険と隣合わせ 緊張を超え与える感動
敷地内を移動していると、数台の2トントラックが目に留まった。このトラックに花火を積み込み出動するのだが、7月も半ば頃になるとレンタルも含め約40台に花火を積み込んで待機し、ひとつ花火大会が終わればすぐ別のトラックで次の現場へ出動し、道内各地で打ち上げを行う。
本番中は滞りなく進んでいるかを確認しながら、消火器を片手に持ち、枯草などに火が付いた時には燃え広がらないよう消火へ向かう。打上げ場所は観客との距離を保つため、普段は立ち入れないような場所になることも。クマ捕獲用の檻の脇だったこともあるというから、色々な意味で気が抜けない仕事である。
失敗できない花火師の仕事だが、練習もできないぶっつけ本番のシビアな世界。「100%思い描いていた通りになることはほとんどなく、失敗と訂正の繰り返し。だからこそおもしろい」と山中さん。情熱の導火線は絶えず燃え続け、また今日もどこかで誰かの思い出を創っている。
さらに深部へ ルポ・あれこれ
昔も今も変わらない 伝統を守る人の手
“工場”といえど、花火の製造は機械化することがむずかしく、ほぼすべての工程が職人たちによる手作業で行われる。星や火薬を作るところからはじまり、数カ月かけてようやくひとつの花火玉が完成する。
花火大会直前。筒への装填作業
打ち上げ用の筒に花火玉を入れて、トラックに積み込んでいく。「夜空を彩る●千発の花火!」というキャッチコピーのウラには、こんな光景が広がっていた。
同社最大規模の「尺玉」
尺玉と呼ばれる10号玉は、開くと直径300メートルにもなる大物。人の頭よりもひと回り以上大きく、ずっしりと重い。打ち上げ場所を選ぶので、見られる場所も限られている。チャンスがあればぜひ見ておきたい。
編集後記
毎年当たり前のように見ている花火は、花火師たちの苦労がなければ見ることができない。けがや事故がないよう、現場の準備が終わったあとは塩でお清めをして、気を引き締めて作業にあたるという。「花火大会のあとはみなさんで“打ち上げ”もするんですか?」などと愚かな質問を投げかけた自分を恥じた。歓声がやりがいとなり、次への活力になると聞いた。今年は思い切り声を出して楽しもうと思う。