身近にある施設や商品、催し物など様々な仕事の舞台裏に、ライナー編集部が密着しました
気になるあの場所へ潜入!
昭和42年創業、旭川で50年以上続く老舗の古本屋。市町村が発行している古い郷土史や宗教書、哲学・思想書や建築の図面集など、専門性の高い本を中心に、幅広いジャンルに渡って買い取り・販売している。大手の古本屋にはないラインアップと、今までの経験で培った値付けを信頼し、長年通い続けている人も少なくない。親子3代に渡って店を守り続ける、業界内でも稀有な存在だ。
本と向き合う深い愛情 歴史を紡ぐ古本屋の役割
市内中心部からロータリーを経由し旭橋方面へ向かうと、左手に「本」と大きく書かれた看板が見える。旭橋を通ったことがある人なら、一度は目にしたことがあるだろう。店先に古本が棚に並べられているが、年季の入った引き戸は、開けるのを躊躇してしまいそうな雰囲気を醸している。入りにくさすら感じる佇まいの中にある日常は、一体どんなものなのだろうか。そのウラ側へ、いざ密着。
本だって、旅をする 老舗ならではのロマン
紙の本離れが叫ばれ、新刊の発行部数も減少している昨今、ひと昔前までは市内に10店舗以上あった古本屋も、今や数えるほどとなってしまった。理由のひとつに後継者不足という問題があるが、ここ旭文堂書店は2代目の中嶋宏彰さんと、3代目となる息子の悠太さんで店を運営している。
店に入ると、奥行きのある店内にずらりと並んだ棚に、びっしりと本が陳列されている。店頭にあるのはおよそ1万冊。管理しているものをすべて合わせると、約3万冊にもなるという。店舗での販売はもちろんのこと、2000年頃からはネットでの販売もスタート。古本に特化したサイトから某大手ネット通販でも販売しており、そのウェイトは8割を超えるという。全国各地に本を販売しているが、不思議なことに売った本が巡り巡って店に戻って来ることがあるそうだ。ページの隅が折られていたり、読了した日付が入っていたりと、手に渡ってきた人の足跡を感じられる本に愛着が湧くという。「人と同じで、本も旅をするのさ」と、宏彰さんの言葉が心に残った。
データベースは頭のなか 信用こそが商売の根幹
店内を眺めていると、バーコードのないものが並んでいることに気付く。それこそが、大手の古本業者との最大の違いだ。旭文堂で買い取りをする本や資料の中には、一般流通していないものも多く含まれる。郷土史をはじめ古い観光案内、バスの時刻表や切符などがそれにあたる。
また、買い取りの際は一度に大量の本に値付けをしていくが、一目見ただけで価値を判断できるのも、歴史ある古本屋ならでは。培ってきた知識と経験に裏打ちされた値付けから信用が生まれる。その積み重ねが、50年以上もの歴史を作っているのだ。
捨てられるものの拠り所 歴史や文化を次世代へ
顧客からの仕入れのほか、東京で開かれる古本屋同士の「交換会」も欠かせない。各古本屋は扱うジャンルに特徴があり、自店で売らない本などは交換会を通じて必要な店へ渡っていく。旭川に関する本が、こういった場で手に入ることもあるという。ここでは情報の交換も行われ、知識を得るための場所としても機能している。
ふと、郷土史はどんな人が購入するのか気になった。先生や大学教授など、教育に従事する人も多いというが、地質調査や自分の祖先を辿るのに使ったりと、その用途はさまざま。鉄道マニアが昔の線路を調べる時にも使われるという。共通するのは、過去を知る上で重要なものということ。そして、捨てられるはずだったものに価値を付けるのが、古本屋が存在する大きな理由ということだ。
「競合がもっと増えてほしい」と悠太さんは話す。古本屋がなくなるということは、それだけ貴重な本や資料が捨てられてしまうということに繋がる。本への愛だけでなく、歴史や文化を絶やさないためにも、古本屋は存在しなければならない。
さらに深部へ ルポ・あれこれ
思わず目を惹かれるポップな店の看板
今までの堅いイメージを払拭したいと、2020年に大胆なリニューアルを敢行。誰もが知る名画「最後の晩餐」をモチーフに、歴史上の偉人たちが本に親しむ姿が独特のタッチで描かれている。
かつての必須アイテム「古書目録」
本の相場がネットで簡単に調べられる現代とは違い、昔は古本屋が発行する「目録」というカタログのようなもので調べていた。ここから知識を得て、値付けをしていたのだ。
CDやレコードもおまかせあれ
本や雑誌以外にも、古いCDやレコード、はたまた骨董や古物なども取り扱っている。こちらは主に、ネットや催事での販売が多いそうだ。懐かしさだけでなく、若い世代に残したい文化のひとつであろう。
編集後記
ネットでの買い物が当たり前になり、今やネットだけで運営する古本屋も増えている。旭文堂書店も、店舗を構えながらもその時流の真っ只中にいるはずだ。だが、実店舗をなくすことは絶対にないと言い切る姿が印象的だった。店舗は貴重な本が集まる窓口であり、文化を残すための場所であり、旅を終えた本が帰ってくる場所でもある。なにより、本が好きな者同士が、本を通して直接交わることができる場所として、残すべきなのだろう。