脚本家の倉本聰さんが原作・脚本を務めた映画「海の沈黙」(若松節朗監督)が11月22日(金)に公開されます。主演の本木雅弘さんと小泉今日子さんが、富良野市内の倉本さんのアトリエでインタビューに答えてくれました。
「北の国から」「やすらぎの郷」など数々の名作を手がけてきた倉本さんが、60年前に起きた事件に着想を得て書き下ろした“最後の作品”。物語の舞台は北海道小樽市で展開します。
着想の元になった「永仁の壺事件」(1960年、それまで鎌倉時代の古瀬戸の傑作として国の重要文化財に指定されていた瓶子が実は、1897年生まれの陶芸家、加藤唐九郎の作品であると言われ、重要文化財の指定の解除、文部技官が引責辞任するなどの事態となった)について、倉本さんは「(偽物だと分かると)皆が美の価値を下げてしまう風潮に納得がいかず、なんとかドラマにしたいと思っていた」と語ります。
倉本さんの最後の作品ということで「覚悟を決めてお受けした」という本木さん。「世の中に美というものを問いかける内容で、それは主人公の津山竜次の生き方そのものであり、繊細さと頑なさを秘めた難しい役と感じました」。
物語は、著名な画家が一枚の絵を「贋作(がんさく)」と訴えたことから始まります。そのころ、小樽市では刺青をいれた女性の死体が発見されます。二つの事件を結ぶのは、かつて天才画家と呼ばれた津山竜次でした。
竜次のかつての恋人・安奈を演じた小泉さんは、その贋作事件の渦中にある著名な画家の妻で、美の世界に生きる2人の画家の狭間で揺れ動きます。「離れていた元恋人と著名な画家の妻という両方の立場の心の機微を表現できていれば」と小泉さん。
美を追求するあまり、画壇から追放された孤高の天才画家は病を抱えながら、安奈と再会したことで、最後の作品への創作意欲が沸き上がります。その姿は、鬼気迫るものがあり、美への執念や狂気を感じます。
本木さんは「『製作は密室の祈り』という言葉があります。心の井戸を掘り下げて堀り下げて、もう何もないという状態から湧き出るものをすくいとる…そうした創作者の魂を表現できたらと思いました」と語ります。
命を削って作品を仕上げようとするも、病床に伏す竜次に安奈は会いに行きます。そこでかけた言葉は、印象的に観客の心に響きます。「あのシーンは色々な感情があって一言では表現できませんが、美を追求する画家としての生き方をまっとうしてくれたことへの感謝だと思います」と小泉さん。「成熟した大人の物語の中で、ヒロイン的な役割を演じられたのはありがたい」 と語ります。
「主人公の生き方は悲劇ではありますが、納得して生きようとする姿、命が尽きるまでそうした思いを貫けたことは幸せだったともとらえることができます」と本木さん。それは、映画のラストシーンで倉本さんが作品に込めたメッセージを、竜次が語るシーンで昇華されます。
10代から芸能界で同じ時代を過ごしてきた本木さんと小泉さん。生き方を問う作品に出合ったことで、最後に自らの生き方についても語ってくれました。
本木さんは「凝り固まる自我や自意識を客観的に見つめ直すことで、自ずと、自然に、自身の存在のあり方を柔らかく、しなやかにしていきたい」。小泉さんは「10人いて、9人がこっちと言っても、自分の心のままに意見が言える強い人間でありたい」と語ります。
映画「海の沈黙」はシネプレックス旭川、イオンシネマ旭川で11月22日(金)から公開されます。