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スパイがスパイをスパイしているのをスパイしているスパイがスパイして…。いったい何を言っているんだ。
どこまでが誰の思惑なのか。本心はどこにあるのか。真実はどこにあるのか。そもそも真実とはいったいなんだ。二転三転どころの騒ぎではない。ストーリーは数分おきにひっくり返る。とはいえ先がまったく読めないわけではない。こちらが読んだもののさらに先を攻めてくるのだ。はるかに格上の相手と将棋でも指しているような気分だ。「こうだろう。」「ほらそうきた。」「あれ。そんな方へ行くのか。じゃあこういうことだな。」「ほら見ろ。え。マジで。」そんなことの繰り返しが二時間続く。何度も騙されて疑い深くなり、あらゆるセリフが嘘に聞こえてくる。どれほど疑ってかかってもまだ騙されるのが不思議だ。どこに着地するのかは最後までわからない。少し強い相手に負けると悔しいけれど、このぐらい圧倒的に負けるとかえって清々しい。緻密に練られた脚本は見事というほかなく、恐ろしいという形容がぴったりくる。この作品によって今後のスパイ映画のハードルはかなり高くなったと言えるだろう。
見終えて劇場を出てきたらもう誰のことも信用できなくなっているかもしれない。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
ネタバレありで書くと言われてもどう書けばネタバレできるのだろう。求められている人物の名前をばらすか。しかしそんなことをしたところでこの作品にとってはどうということもない。痛くも痒くもない。ネタを突き止めることが目的の作品ではないからだ。
要約すればこれは諜報部員による騙し合いの物語である。敵を欺くにはまず味方から、というのは基本中の基本だけれど、この作品では主人公がそもそもどちらの味方なのかがよくわからない。複雑なストーリー展開によって隠蔽されているのは黒幕でも陰謀でもなく、主人公の本心なのだ。彼女がどう思っているのか。どうしたいのか。この無茶な状況をどこに着地させようとしているのか。それこそがこの作品の「真相」と呼ぶべきものだろう。そう言ってしまったところで、彼女の真意は「母を守りたい」ということなのは序盤から明らかで、問題は「そのためにどういう手段を採ろうとしているのか」という点にある。
張られた伏線が全部回収されるまで気が抜けない。「こうだろう」と予想が立ったら「あの時のあれはどうなった」と自問する。疑問が一つでも残っていれば予想は間違っているだろう。
惜しむらくはこのストーリーが映画として表現されていることだ。映画は作り手のテンポで物語が進む。このストーリーをじっくり考えるには、映画のテンポは少々速い。これはぜひ小説で、「ちょっと待てよ」と言って本を閉じ、ゆっくり思いを巡らしてから先を読む、と言った楽しみ方をしたいストーリーだ。