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良い役者の揃った剣豪物時代劇。それだけでも面白くないはずがない。主人公、瓜生新兵衛はこれ以上ないはまり役で、原作のイメージそのままだ。原作が好きな人にこの新兵衛は見せたい。しかし、原作から人物関係が変えられている。特に坂下家を大幅に変更してしまっているのは気になる。原作を知らなければこの点はまったくマイナスにならないだろうけれど、原作を知っているとやはり入り込みづらい。
剣豪時代劇として特に新しさがあるわけではないものの、安っぽいセットは登場せず、全編に渡って映像の説得力は非常に高い。大半のシーンは屋外で撮影されているように見えるが、現代の日本でこれを撮影できるのか、という驚きがある。ぴんと張り詰める殺陣の緊張感もすばらしい。あまりにリアリティがあるのでかえってあっさり見てしまうが、ここまでリアルな時代劇というのはそうそうないのではあるまいか。
終盤の大立ち回りでは、行きつくところまで行ってしまった采女(うねめ)の圧倒的な強さに震える。心の水面が凪いだとき、剣豪は無敵の強さを発揮する。
一振りの名刀のように静かな美しさを湛える時代劇。心静まるひとときを過ごせるのは間違いない。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
達人四天王が登場する剣豪もの。そう聞くだけで、ああ、主人公以外の三人は死ぬなぁ、と思うわけだが、その通りの展開になる。全般にこの作品は剣豪時代劇のテンプレにしっかり乗っかっていて、定番の型にはまった登場人物が一通り登場する。悪役はどこまでも悪いやつで、いつでも心おきなく斬れる。ストーリーにも意外性は無く、逆に言えばしっかりツボを押さえた作品と言える。紋切型と言ってしまえばそれまでだが、じゃあ不満かと言われれば全然不満ではない。やはりこうした作品は紋切型をいかに丁寧に描くかというところにかかっているのかもしれない。その意味で行くと、この作品は実に丁寧に作られている。お決まりの展開ではあるものの、説得力のある映像を見せるということに注力されていて、リアリティは異様に高い。
役者も実に強力な顔ぶれを揃えている。若手はやはり時代劇言葉の言い回しに無理があり、少々耳ざわりが良くないものの、中核をなす顔ぶれや悪役などはベテランが圧倒的な芝居を見せているので全体としてほぼ気にならない。
ラストシーン。去り行く新兵衛を里美が引き留める。このシーンを見て、ああ、このために里美の位置を原作と変えたのかな、と感じた。主にこの里美と新兵衛の関係に違和感を覚えるのだけれど、この映画のラストシーンは美しく、なるほどと思えた。