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本質とはまるで関係ない小さな要素が気になってしまい、そのせいで本来見るべきものに目がいかなくなる、そんな経験あるでしょう。『TAXi ダイヤモンド・ミッション』はTAXiシリーズの5作目。メインキャスト一新で出てくるこの作品を大いに楽しみにして見に行ったのに、些細なことが頭を支配する。それは強盗団のボス、トニーの肌が異様にきれいなことだ。トニーはイタリア人で体格が良く、ひげもじゃでサングラスをかけている。そのひげもじゃのすぐそばできめ細かいお肌がつやつやしている。サングラスを外せばパッチリおめめで、「この人はぜったい悪人ではない」という印象を受ける。しかし強盗団のボスでれっきとした悪役。ひげもじゃなのに餅肌。おかげでほかのあれこれは吹っ飛んでしまい、ひたすら彼の顔が印象に残る。新しい主人公は若かりし日のジェイソン・ステイサムみたいであったがインパクトとしてはひげ餅にかなわない。
前の四作と見比べると少々見劣りするのは否めない。しかしスーパーカーがド派手に走り回ればそれ以外どうでもいいという割り切りはむしろ痛快だ。そもそもストーリーなど無いに等しいのでシリーズを全然見たことなくてもOK。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
もともとこのシリーズはレーサー顔負けみたいなタクシーの運ちゃんが、ほとんどボンドカーかナイトライダーみたいなムチャなタクシーで犯罪捜査に協力する、というような話だ。リアリティなど最初から求めていないし、ストーリーもどうでもいい。重要なのはムチャなタクシーが走り回るというただその一点のみだ。
本作はその5作目にあたるのだが、前作はもう10年以上前になる。1作目は20年前で、1作目からの10年間で4本が作られ、本作は10年ぶりにシリーズが再始動した作品、というような位置づけにある。メインのキャストを一新して再始動したというもので、似たようなケースとして『トランスポーター』シリーズが思い浮かぶ。思えばあれもリュック・ベッソンだ。トランスポーターの方は主人公が入れ替わっても「これはまぎれもなくトランスポーターだ」というものになっていた。しかしTAXiの方はちょっとうまくいっていない。
『TAXi』シリーズは前述のように、超人的なドライビングテクニックを持った主人公が「タクシーの運ちゃん」であることに意味があった。だからこそのTAXiというタイトルなわけだ。トランスポーターも運び屋で、やはりその点がブレてはいけない。ところが今回、本作の主人公は警察官なのである。警察官がふとしたことから例のムチャなタクシーの存在を知り、それを手に入れて捜査に使う。つまり車こそ前作に登場したあのタクシーだが、それを運転するのは警察官だ。これははたしてタクシーと呼べるのか。
そして、映画ファン的な感覚からすると、『TAXi』という映画はフランス映画であるという点も重要だった。フランス映画だからフランス車であるプジョーの車が大活躍する。どんなスーパーカーよりも速いプジョー。本作に登場するタクシーは前作のものを引き継いでいるからもちろんプジョーではある。しかしもう10年以上前の映画に登場したそのままの車種だ。途中で新型のプジョーに乗り換えるとかしても良かったのではないか。『トランスフォーマー』のバンブルビーは登場するたびに新しいカマロにアップデートされているではないか。さらにストーリー展開にもフランス車的に問題がある。今回の敵はイタリアの強盗団で、フェラーリやランボルギーニのスーパーカーで立ちはだかる。そこにプジョーで挑む。それはもう当然熱い。イタリアの世界的なスーパーカーを小型のプジョーで脅かすのだからそれ自体はとても良い。が。ラストでなんと、例のプジョーはお釈迦になり、主人公は強盗団から没収したランボルギーニのアヴェンタドールで去っていく。これはダメだろう。どう考えてもダメだ。ここで新型のプジョーを出すべきだっただろう。もちろんプジョーじゃなくてシトロエンでもいいが、いずれにしてもフランス車じゃないとダメ。
TAXiの再始動は喜ばしい。しかし嬉しそうにランボルギーニのステアリングを握るような主人公を断じて許してはならないのだ。