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- ⓒ2019「ダンスウィズミー」製作委員会
そこらじゅうに音楽が溢れている。避けては通れないほどに。そこに本当に音楽は必要なのかと思うようなところにまで音楽は溢れていて、丸一日まったく音楽を聞かないというのはとても難しい。本作の主人公はそんな現代にあって、音楽が耳に入ると踊らずにはいられない、歌が聞こえれば歌わずにはいられない、という催眠術にかかってしまう。催眠術と言うといかにもオカルトな気配でご都合主義的な匂いがするけれどそうではない。無意識の抑圧を取り外すことによって本心を解放するという心理療法でもあるのだ。
主人公は自分の意思とは無関係に踊り出してしまい、その状態になるとある種陶酔した妄想の世界に突入する。その世界では周囲の人もみんなミュージカルで、みんなで歌って踊る。とても楽しい世界が広がる。しかし実際には彼女だけがそういう状態にあり、周囲に迷惑をまき散らしている。この作品はそのミュージカル的狂騒が通り過ぎた後の世界を描いている点が新しい。
主人公はそのはた迷惑な催眠術を解くため、かけた催眠術師を追って北上する。その道中でいろいろなことが起こり、それぞれのシーンで「もっと見たい!」と思う。この夏最高に楽しい一本だ。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
もっと見たい。主人公が催眠術にかかった後、様々なところでミュージカルパートが挟まることになるわけだが、そのそれぞれのシーンはどれももっと見たい。特に、ロードムービー的な展開になって北上し始めてからの部分はそれぞれのパートがあっさり描かれているので、「もっと見たい」感がどんどん積もる。ヤンキーのバトルに巻き込まれるあたりはあっけなさ過ぎてもったいない。刺青顔ピアス色黒マッチョなイカツイお兄さんたちがどっさり登場し、バリバリの改造車で倉庫みたいなところに集まる。どうやら2つのグループによる衝突で、一触即発な火花散りまくりのシーンだ。緊張が高まり、「やんのか!?」「やってやるよ!」みたいなやり取りから、まさかのダンスバトルに発展する。改造車は車内に巨大なスピーカーを積んだものばかりで、爆音でヒップな音楽を流しながらダンスバトルをする。踊らずにいられない主人公はもちろん踊りまくる。圧巻のこのシーン、もっと見たい。もっと五倍ぐらいの長さでも良かったんじゃないかと思うほどに、あっけなくフェードアウトしてしまうのだ。もったいない。やりすぎると退屈だろうという配慮なのかもしれないが、ミュージカルなんだからダンスパートこそ見たいのだ。極端な話ストーリーなど二の次でも良い。このシーンでは主人公のダンスももちろんそれまでのミュージカル的なものからストリートダンスに変化する。このダンスをもっと見たかった。
借金取りのコワモテなおじさんたちやヤンキーたちなど、怖そうな人たちが踊るというのはそれだけで笑いを誘う。唐突に歌い始めたり、敵味方入り混じって踊り始めたりするというミュージカルこそ、平和の秘訣なのかもしれない。
「探し物はなんですか? それより僕と踊りませんか?」という井上陽水による歌詞。この歌も本編で使われているけれど、これこそが真理なのかもしれない。ダンスウィズミー。それは笑顔への第一歩。人間とはかくも歌って踊る生き物なのだなぁ。