1. ライナーウェブ
  2. ニュース&記事
  3. おでかけ
  4. WAVES/ウェイブス

魂のヴァイブレーション

WAVES/ウェイブス

この記事は最終更新日から1年以上経過しています。
内容のー部もしくは全部が変更されてる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
ⓒ2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.

きわどい。最初のシーンから音が強力だ。画面から溢れ出ているのは「若さ」だ。若さとは有り余るエネルギーだ。それが音楽となってシアターの空気を震わせている。きわどい。最初のカットから異様な緊張を感じる。そこここに漂うのは死の香りだ。クルマが走るシーンでは今にも事故を起こすのではないかと思い、列車が見えれば衝突するのではないかと思う。窓から顔を出せば対向車と接触するんじゃないかと思い、浜辺で遠雷を聞けば落雷で死ぬんじゃないかと思う。常に死が付きまとっているのだ。

この映画が描いているのはある一つの家族だ。主人公は前半が息子で、後半はその妹。一本の作品ではあるものの、中身は完全に二つに分かれていて、前半と後半はまったく別の映画かと思うほどテイストが異なる。前半は強烈なヴァイブレーションを伴う音楽的な映像で、破滅のすぐ隣を全力疾走しているような緊張感がある。翻って後半はもっとわずかな震えを伴うささやきのような映画だ。もちろん音楽も穏やかになる。

この映画で起きたことをニュース記事にするとどうなるのか。きっと事実だけを並べても現実を知ることにはならないのだ。この映画はそのことを気づかせてくれる。(映画ライター・ケン坊)

「WAVES/ウェイブス」公式サイト

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

もっと読む

とても音楽的な映画だ。音楽と映像の表現が五分五分で絡み合っている印象を受ける。主人公は肩の故障を隠しながらレスリングに挑んでいる。彼はまっすぐな青年だ。割とイケイケな連中とつるんでいるものの、悪いやつでないということは伝わってくる。しかし彼のおやじは異常だ。まっとうな人物だがあまりに厳格で、周りのことが何も見えていない。とりわけ、息子のことをまったく見ていない。見ようともしていないが、本人はそれに気づいていない。これは無自覚の暴力である。主人公はこういうおやじに対し、どこか底の方に鬱屈したなにかを蓄積しながら穏やかにやってきた。そこから生まれる緊張感が、スクリーンに漲っている。今にも破裂しそうな動脈瘤のように脈打っている。「あぁ、よくわからないけど人が死ぬ」という気配が、最初のカットからずっとそこら中に滲み出ている。

見ていて苦しい。限界まで膨らんだ風船にまだ空気を入れようとするおやじ。無理だ。もうダメだ。でもおやじはどこまでも無自覚だ。おまえのせいで人が死ぬぞ、と思いながら見る。おまえが大切にしている息子はおまえのせいで破滅しそうになっている。それなのにおまえはそれに微塵も気づかない。なぜわからないんだ。そんな思いで祈るように画面を見る。お願いだから破壊的なことになる前に小さく爆発してくれ。おやじと殴り合いでもして解決してくれ、と思う。

しかし。もちろんそんな風にはならない。考えうる限り最悪の形で破滅は訪れる。嗚呼。おやじにあったのは善意だった。彼は息子を愛していたし、すべては良かれと思ってやっていたことだった。ただ、肝心の息子をぜんぜん見ていなかった。無自覚に振り回す善意はロクな結果を生まない。その見本のようなおやじだ。

前半で息子は取り返しのつかないことになり、後半はその妹を主人公にして家族の再構築を描く。完全に崩壊した家族はこの妹を中心にカタチを取り戻そうとする。妹にできた彼氏がキーになった。彼氏のロクでもないおやじが危篤となり、妹はこの彼氏を連れてその死にかけているおやじに会いに行く。この一件を通じて、妹は「家族」というものを理解するのだ。彼女の家族に欠落していた家族に必要なもの。それを見つけた彼女はそれをもって家族のもとへと帰って行く。

家族はカタチを取り戻し、妹には笑顔が戻る。ハッピーエンドのように描かれるラストシーン。しかし。そこに兄の姿は無い。大きな欠落だ。無自覚が巻き起こしたこれが結果だ。

この事件がニュースになれば、世間の何も知らない我々は加害者を責めるだろう。しかし。この映画の息子、タイラーを人でなしだと罵ることができるか? 確かに彼の犯した罪は重い。しかし彼がそんなギリギリのところにいるのに気づきもせず、どうでもいいことに厳格だった父親は涙ながらに「愛している」とかいうセリフを吐く。この父を許して息子が責められていいのか?

事実を情報として受け取っただけでは、ことの本質はまったく見えていない。そのまま軽率な意見を表明することは、自らもまた無自覚に悪を振りまく加害者になるということに他ならない。

関連スポット

シネプレックス旭川

シネプレックス旭川

住所:旭川市永山12条3丁目ウエスタンパワーズ内

TEL:0570-783-882

永山/アミューズメント

関連キーワード

シネマの時間 バックナンバー

早乙女カナコの場合は
人間模様を丁寧に描く、とても静かな恋愛映画である。安易に「恋愛映画」と書いたけれど、これはそんな安っぽいカテゴライズで括るにはもったいない映画だ。恋愛映画が好き... (3月21日)
名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN
シンガー・ソングライターでノーベル賞を受賞した、現時点での唯一の存在であるボブ・ディラン。本作は彼の半生から初期のごく短い期間にフォーカスして描いた伝記的映画作... (3月7日)
キャプテン・アメリカ: ブレイブ・ニュー・ワールド
言わずと知れたおなじみのタイトルだが、かつてのスティーブ・ロジャースではない、新しいキャプテンである。一旦第一世代とも言うべき時代が終わったアベンジャーズシリー... (2月21日)
ショウタイムセブン
報道番組の生放送を舞台に、爆弾テロ犯とのリアルタイムのやり取りを描くスリリングな作品。少々突飛な事件ではあるもののいつ何が起きてもおかしくない緊張感がそこかしこ... (2月14日)
室町無頼
室町時代中期、応仁の乱の五年ほど前に京都で蜂起した寛正の土一揆の大将、蓮田兵衛を描いた時代小説の映画化である。時は室町時代中期、いわゆる長禄・寛正の飢饉と呼ばれ... (1月24日)
PRインターネット広告掲載はこちら »

ニュース / キーワード

ようこそ、ゲストさん

メールアドレス
パスワード

※パスワードを忘れた方はこちら

はじめての方はこちら

アカウント作成

ライナー最新号

2025年4月4日号
2025年4月4日号
旭川でも栽培が広がる サツマイモの魅力を 広めるプロジェクト始動
紙面を見る

ピックアップ

つくろう旬レシピ
つくろう旬レシピ
プロの料理人が教える季節の食材を使った絶品レシピをご紹介
注目グルメ
注目グルメ
定番から新作まで ライナーが今注目する お店の味はこれだ!
味な人
味な人
北北海道で食に携わる人々の横顔をご紹介
シネマの時間
シネマの時間
映画ライター・ケン坊が語る新作映画とそのみどころ
スーパーのお惣菜
スーパーのお惣菜
スーパーうまい!サラダ編
ものぴりか
ものぴりか
ライナーが集めてきた 地元の素敵な品々を紹介します
不動産情報
不動産情報
不動産・リフォーム等 住まいに関する情報を公開中
クーポン
クーポン
お得なクーポンを公開中
お知らせ
お知らせ
お店・スポットの お知らせ
ラーメンマップ
ラーメンマップ
ラーメン食べたいなぁ そんなときは専用マップで探してみよう
開店・移転・閉店
開店・移転・閉店
旭川市・近郊エリアの新店や創業などの話題。情報提供も歓迎!
星占い
星占い
4/1〜7の星占い

ページの最上段に戻る