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必要なのはペダルを回す足だけや!

弱虫ペダル

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ⓒ2020映画「弱虫ペダル」製作委員会 ⓒ渡辺航(秋田書店)2008

熱い。スポーツを通じて芽生える葛藤、挫折、友情、達成感。そういったものがありったけ詰まった青春映画だ。

一見スポーツとは無縁のオタク少年が自転車競技に目覚めて優れた選手になる。その一見かけ離れた場所がちゃんと必然性をもってつながる。この作品の力はそこにある。そして周辺に配置された仲間たちの個性。もう愛すべきキャラクタばかり登場する。あなたの好きな人物がこの中に必ずいるだろう。わたしはちなみに巻島先輩が好き。

この映画が素晴らしいのは、描く内容を潔く絞ったところだ。主人公が入部するまでと、入部後の県大会しか描かれない。原作はその後も時間が流れ、キャラクタたちは文字通り年齢も成長して境遇にも変化があるなど、大河ドラマの様相を呈している。本作はその最初のエピソードだけをじっくり描く。もう一つ潔いのは、青春映画でありながら「恋愛」を徹底的に排除したところだ。ヒロインを橋本環奈が演じているけれど彼女は誰とも恋仲にならず、そして彼女以外は、そもそも名前のある女子が登場しない。

自転車競技を描いた作品だけれど、自転車に興味が無くても楽しめる。後味の良い良質な青春映画として広く皆さんにお勧めしたい。(映画ライター・ケン坊)

ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム

この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。

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ボロボロのママチャリでひたすら千葉から秋葉原まで、往復90キロを毎週走り続けたオタク。彼は知らず知らずのうちに、ロードレースのクライマーとしてとんでもない資質を磨いていたのだった。というこの設定によって、オタク少年が一級の自転車選手になる、という飛躍に必然性を持たせている。この根拠に不都合がないため、一見無茶に見える話にリアリティがあって共感を呼ぶ。そして彼を取り巻く登場人物がいずれ劣らぬ魅力を持っている。どうでもいいキャラクタは一人もおらず、全員が魅力的だ。どの一人をとっても主人公にしてスピンオフ作品を作れるほどに、魅力がある。

わたしはこの作品を見るまで、自転車競技といえば競輪しか知らなかったので、こんなふうにチームで戦うものだとは知らなかった。チームと言っても駅伝のようにリレーするのではなく、全員がスタートからゴールまでを走る。ただ、チーム内で一番最初にゴールした人の順位が、そのままチームの順位になるようだ。このルールはなかなか面白く、これによって競技に戦略性が生まれる。個人技の強い選手を集めても、優れた参謀がいなければ勝てないのである。これが作品に面白さを添える。

主人公のチームにはその「優れた参謀」である金城という上級生がいる。彼を中心に、得意分野の異なる選手たちが集まっている。そして新入生には、その上級生一人一人に対応するタイプの選手がいて、それぞれ直属の先輩について技術を磨いていく。この点でバディもののようなパートナーシップが生まれる。同学年の横のつながりと、上級生との縦のつながり。それを複合的に描く、部活ものとして見事な人物配置だ。

2時間ほどの上映時間で、本紙も書いたように内容はかなり絞られてはいるものの、それでも駆け足感はある。県大会ではライバル校とのやり取りが少し描かれるけれど、ここで描かれている強敵がどういう背景を持った人物なのかは描かれない。これ自体がうまい割り切りでもあるのだけれど、これによってクライマックスのバトルは敵側の思いが見えないという物足りなさはあった。それはしかし原作が大河ドラマなのだから、この映画としてはやはり割り切りの潔さをこそ褒めたいところではある。

シンプルな青春映画なのに、いや、だからこそと言うべきかもしれないが、熱く胸に刺さる作品であった。またしばらく時間がたったら、もう一度見たくなるような作品だろう。

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