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この映画を見てしまったら、見る前の状態には二度と戻れない。久しぶりにこれまでに見たことのない映画表現を見たと感じた。少々大げさだけれど、映画史の重要な局面に立ち会った感覚だ。
私はSFが好きなので時間を移動するアイデアの作品はこれまでにいくつも見ている。それでもこのタイプは初めて見た。この作品では時間が遡行する。それは簡単に言うと、「。だとこういとるれ流にまさかさが間時、くなはでのるす動移へ去過に単」この映画で起きることはこの「」の中のようなことで、時間が逆方向に流れるのだ。同じ時間を過去から未来への流れとして感じている人と、未来から過去への流れとして感じている人が居合わせる。この点がこれまでのタイムトラベルものとは大きく異なる。
さらに、同じ時間軸に同一人物が居合わせることもあり、エピソードは複雑に絡まり合う。見終えた瞬間、「クリストファー・ノーランはなんちゅーとんでもないことを考えたのじゃ」と、語彙も謎なことになり、もう一度チケットを買いに…。この作品はきっと、何度も見るとそのたびに発見があるだろう。しばらくは他の作品をお預けにして毎日これを見に映画館へ通うことになるかもしれない。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
はっきり言って、この作品にネタバレもなにもない。一度見終えて結末までわかってからが本番だ。それから何度でも見て、見るたびに発見があるだろう。
熱力学第二法則を覆す事態が未来から送り込まれてくる。エントロピーを減少させることで時間を逆行させる。これまでの時間移動は、過去や未来のある点へ移動し、移動してからは普通に、過去から未来へ向かって時間は流れていた。それがこの作品では、過去のある点へ移動はするのだけれど、そのあと時間は逆向きに流れる。しかも、ある時間を普通に過ごしている人のところへ逆行してきた人が現れると、その周辺では知覚が遡行する。この、順行の人と逆行の人が居合わせて、時間が前進しながら現象が逆行するというアイデアはこれまでに見たことがない。パラレルワールドが重なったままの状態で知覚されているような感覚だ。
時間の前と後ろから挟み撃ちにする、といった複雑な作戦が展開される。さらに事態を複雑にしているのは、逆行していない人物のところに逆行している人が居合わせると、逆行していない人にも現象が逆転して見える、という点だ。逆行してきた相手と格闘したりすると、物理法則がねじれたような事態になる。この異様な事態を避けずに真正面から映像化したことに脱帽する。
それにしてもこの作品、いったいどうやって撮影したのだろう。映像を逆再生するというのは太古の昔からある手法で、ある意味、フィルムに映像を撮影できるようになったとき、人は初めて時間を遡行させる手段を得たともいえる。そういう意味で映画という手法自体が、時間を操作する手段に他ならない。この作品ではその「映像の逆回し」の世界に、順行している人物が描かれる。逆行世界のどのタイミングで何を見せるのかを緻密に計画し、逆廻しの結果としてそういう映像が得られるように、順行の世界で撮影を行う。それを逆回しして順行人物を合成する。いやもう、作り方として理解はできても、気が遠くなるような撮影プランが必要になりそうだ。こんなものを実現したクリストファー・ノーラン監督はやはり当代きっての名手と言わざるを得ない。