内容のー部もしくは全部が変更されてる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
- ⓒ2020 映画「みをつくし料理帖」製作委員会
艱難辛苦しながらもひたむきに生きる女性を描く時代小説の名作。何度かシリーズドラマとして映像化されている作品だけれど、今回は映画化ということでエピソードを抜粋して特に野江との関係にフォーカスしてまとめられている。二時間程度の映画という尺の中で長大な原作を描こうとするのでどうしても大河ドラマの総集編みたいになりがちだけれど、キャラクタをうまく配置してまとめてあった。藤井隆演じる清右衛門が特に印象的。清右衛門との対決シーンがクライマックスに据えられており、それより後のエピソードには触れられない。この割り切りがスッキリとしていて良い。
いかなるときも自分の進むべき道をまっすぐに進む主人公。底の方に静かな強さを備えた人ではあるけれど、彼女は周囲の人に大きく支えられている。多くの魅力的な人々が力を貸そうとする。どんなに酷い状況になっても折れない、投げない、腐らない。そのひたむきさが人を魅了する。それこそが彼女の強さなのだ。
本編のラストシーンは美しく見事。それだけにエンドロールで付け加えられる映像は蛇足感があった。ただ、歌と料理の写真はすばらしい。この映画を見るときっと和食を食べたくなる。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
全十巻に及ぶ原作は澪という主人公の半生を描いた大河ドラマである。幼馴染の親友と生き別れになり、二人はそれぞれに過酷な人生を生きる。原作は澪の料理で身を立てるという生き方を描いて和の食をていねいに描く料理小説でもある。料理という要素を切り離すと浮き上がってくるのは澪が野江を取り戻すという話だ。その途上に紆余曲折いろいろある。
本作は江戸に出てきた澪が料理人として成長しながらすぐそばで野江が生きていることを知り、近くて遠い二人がお互いの存在を希望にして前へ進もうとする様を描いている。ラストシーンでようやく澪は野江と再会する。このラストシーンはとても美しい。二人の近さと遠さがめいっぱい感じられる。
雲外蒼天。重い雲の下で艱難辛苦に耐え、生き抜いた先でやっと出会う誰も見たことがないほど青い空。誰も見たことがない青はやはり観客が心に描くものだ。本編のラストシーンは原作ではまだまだ途中ではあるけれど、二人の未来に広がる青い空が見えるような素晴らしいラストだった。
それだけに、エンドロールに追加された映像は蛇足感がひどい。空の青はやりすぎて書き割りのような嘘くささを伴い、思い出の橋で並ぶ二人が交わした言葉は文字として表示される。どう考えても不要だ。原作を知らずとも、本編のラストシーンだけでこのシーンは予感できた。もっと美しいものとして観客の心に映ったはずだ。
松任谷由実による楽曲を手嶌葵が歌うエンドロール。料理の写真がフィルムに並び、画面の端を流れる。それだけで良い。本編のラストから歌と料理のエンドロールであれば、それぞれの料理がもたらしたエピソードを振り返りながら余韻が身体に沁み込んでいく。あのわざとらしい青空だけが残念でならない。