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自分の未来を自分で選ぶ。シンプルなようでいて実際に自分で選び取るのは難しい。この作品は特殊な力を持つ妖精たちと人間が共存している世界を描いている。妖精はそれとわからないように人間の姿になり、人間界に溶け込んでいる。物語は、とてつもない力を秘めた幼い妖精をめぐり、共存を推進する側と人間を排斥しようとする側が衝突するというようなもので、ストーリーに新しさはあまり感じないし、ほとんど説明なしで登場する妖精たちの能力の話も、どこかで見たような設定に見える。逆にありがちな設定を踏襲することでそうした世界観の説明を省略し、主人公を中心とした人物関係に注力していると言える。
物語に斬新さはないものの、映像は見応えがある。中国のアニメ制作技術がどんどん向上しているという事実を垣間見ることができる。特にアクションシーンのスピード感や動きの気持ちよさなどは、かなり日本のアニメを研究して作られていると感じた。一流の声優で吹き替え版が作られていることもあり、ほとんど違和感なく見ることができる。
アニメファンの人にはぜひ見てほしいし、残酷描写などもないので子ども連れで見に行くのにもオススメしたい。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
森に暮らす、動物の姿をしていながら特殊な能力を持つ存在、妖精。人間たちが森を切り開き、町を作る。妖精は人間の姿になって人間たちと共存していく。しかしもちろん、森を奪った人間を許すことができない妖精もいる。そういうものたちと、共存を選んだものたちとの闘いを描いている。主人公に近い位置に、特殊な力を持った人間が登場する。彼はかなり重要なキャラクタで、物語の核を担う。が、彼がなぜ、人間でありながら妖精たちを凌駕するほどの能力を持っているのか、その説明はない。また、妖精たちはそれぞれに異なる能力を持っているのだけれど、その能力に属性のようなものがあるとはされるけれど、どのような属性が存在するのか、それが相互にどう影響し合っているのか、といった設定はわからないままだ。
この作品のオリジナルでありそうな要素は感じられず、どこかで見たような設定の寄せ集めのようにも見えてしまう。作品の世界観がほとんどまともに描かれないため、ぜんぶ異能力バトルを見せたいがためのもの、という風に見えてしまうのだ。バトルシーンは確かに見応えがあり、中国のアニメーション技術の向上を垣間見る迫真の出来栄えではある。でも映画として見たときに、世界観やストーリーが映像を見せるためにある、という逆転現象が起きてしまう。これは「すごい映像」を見せたい作品が陥りがちな穴で、この作品に限らずそういう穴に落っこちている作品は少なくない。
本稿を書くにあたっても、アニメーションの技術についてなら、いくらでも書くことは見つかる。日本のアニメを丁寧に研究した成果であろうことは疑いなく、中国アニメの技術レベルはここ数年で飛躍的に向上していると思う。しかし、ひとたび映像を離れて「映画」について語ろうとしてみると、驚くほど書くべきことがない。ストーリーを解きほぐすといろいろな疑問が湧いてきてしまう。ご都合主義的に見えてしまう部分も多々あるし、説明がなさ過ぎてよくわからない部分もある。特に終盤で登場する強いキャラクタは、自分がその世界で有名であることを自認しているらしいふるまいで登場するのだけれど、見ている我々にはそういう前振りが一切ないため、終盤で唐突にレギュラーキャラっぽいものが登場して「知ってて当たり前」みたいに振舞う、という置いてけぼり感を味わうことになる。長くシリーズで続いてきている作品の続編をいきなり前知識なしで見ているような感じなのだ。内輪ノリについていけなかったような疎外感を覚える。
そして美しいラストに至るわけだけれど、ムゲンがこれほど重要な位置に来るのであれば、彼の過去についてもう少し触れてくれたほうが良い。彼は人間でありながら妖精よりも強い力を持ち、執行人というポストを務めている。確実に、何か裏がある。それについてにおわせることすらもないため、最後まで彼は謎に包まれたままだ。その謎に包まれた人物に、主人公は自分の未来を賭けてしまう。もう少しムゲンを知りたい。知らなければ、あのラストシーンに納得することができないのである。