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- ⓒ2017 Buckeye Pictures, LLC
音楽業界を舞台に、二人の男と彼らを取り巻く複数の女たちによる愛憎劇を描いた作品だ。彩ゆたかな音楽と主人公のモノローグに乗せて描かれる詩のような作品と言える。実は2017年の作品で、三年越しでようやく日本でも公開されることになった。
音楽ビジネスとそれがもたらす経済的成功。その裏にある打算、取引、搾取、裏切り。一部レズビアンも出てくるものの、全体として成功した男とそこに集まる女たちという描かれ方になっていて、この男女観は幾分時代遅れであると言わざるをえまい。さらに、得体のしれない人として黒人が登場する(それ以外は全部白人)など、隅々まで差別的視点に満ちている。
心地よい音楽に乗せてほとんど起伏のない愛憎劇を差別的視点で描いている作品であるため、見ているととても眠くなる。モノローグも淡々としていて、「この人物の恋の行方を知りたい」とはあまり思えない。キャラクタの誰かに興味を持てれば楽しめるかもしれないが、そうでなかった場合ひたすら退屈な作品である。ただ、音楽は心地よくて素晴らしい。思えばこの監督の作品、「ツリー・オブ・ライフ」も退屈と心地よさが同居していてまどろみながら見た覚えがある。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
この作品の主人公はルーニー・マーラ演じるフェイとライアン・ゴズリング演じるBVの二人だ。前半はフェイのモノローグ、後半はBVのモノローグでストーリーが進行する。彼らは物語の序盤から惹かれ合っているのだけれど、二人の近くにいる音楽プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)に翻弄されて紆余曲折ある。クックはいわゆる悪役ポジションで、ろくでもない男だが成功者として描かれている。成功者であり女たらし、というステレオタイプな人物だが、後半になるとわけのわからない連中と付き合い始める。このわけのわからない連中がみんな黒人で、実にここ以外にはほとんど黒人が登場しないため、ひどく偏った視点を感じる。この辺からクックという人物は理解を超えたものになり、ついていけなくなる。彼はもともと狂っていたのか、金持ちとしての生活を続けるうちにおかしくなったのかがよくわからない。ここにも「成功者」に対する偏見を感じる。
クックの周辺ではいろいろとひどいことが起き、彼のせいで人生がめちゃめちゃになる人物も多い。しかし、この作品はあくまでフェイとBVの行方を描いているため、作中のいろいろとショッキングな出来事はどれも「主軸とは関係ない」ものとしてあっさり流れていく。
BVはたいして売れないミュージシャンという設定のようだけれど、それにしてはなかなか豪奢なところに住んでいる。その彼が音楽の世界をあきらめてこれまた極端な選択をするのだけれど、そんな風に路線を変更しなければならないほど音楽で困窮していたようには見えない。華やいだ世界の闇の部分を描き、地元へ帰って体育会系の職業へ転職する、ということを美談として描いている。貨幣経済とその中における経済的成功に対する半ば僻みとも取れる嫌悪、時代遅れの男尊女卑、人種差別などの偏見を含んだ作品で、音楽と出演している俳優陣が素晴らしいことを除いてほとんど見どころは無い。逆に言えば、音楽と俳優だけでなんとかなるほど、それらの持つ力は大きい。