内容のー部もしくは全部が変更されてる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
- ⓒ2020 Eve Nevada, LLC.
超人的な能力を持つ殺し屋を描いたアクション映画である。それ以上も以下もなく、新鮮味はない。超人的な女性が主人公の作品として「LUCY」とか「レッド・スパロー」などが想起されたけれど、超人としては「LUCY」に及ばず、ストーリーの深さでは「レッド・スパロー」に及ばない。
アクション映画としての見どころはある。高い身体能力でアクションを演じるジェシカ・チャステインはスタイルも良く、スピード感もあって見事だ。ただ映画全体として見ると、完全にそのジェシカのアクションを見せるためだけの映画で、彼女の所属する組織がどういうものなのかも、どんな理由でどこから依頼を受けて殺しをやっているのかも不明だ。暗殺対象の幅もかなり広く、そこに対して説得力のある説明は一切ない。
しかしそれでいながら、恩師を演じるジョン・マルコヴィッチと、組織内で敵対する役を演じるコリン・ファレル、彼らとジェシカ、三人の存在感がただごとではないのでちゃんと見られるものになっているのである。
エヴァを演じているジェシカ・チャステインは撮影時点で四十歳を超えている。それこそがこの映画で最も驚くべき点かもしれない。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
この映画にはバレて困るようなネタはない。驚異的な能力を誇る殺し屋を描いた作品で、そんな殺し屋にも家族があり、家族を思う心がある、というような描き方がされる。最近のアメリカ映画はなんでも安易に家族愛につなげてしまう印象がある。極端な主人公を家族愛に紐づけさえすればなんでもあり。そういう傾向が見受けられ、正直なところ少々飽き気味だ。この作品も単にアクションを見せたいだけの映画なのだが、それだけでは映画たり得ないということなのか、なくてもいいようなテーマ性のために「家族」が持ち込まれる。でも、冒頭で畳みかけるような映像でエヴァが殺し屋になった経緯を圧縮して見せており、この人物をしっかり描こうという気がまったくないことを自ら表明している。人物の背景がないと成立しないから適当に入れておけばいい、という姿勢がそこここに感じられるのだ。
この映画に限らず、最近は本当にどうでもいいような家族愛をちょちょっとくっ付けてただ映像が派手なだけの作品に仕上げる、という手法が蔓延しているように感じる。そんなことをするぐらいなら最初からもっと奇想天外な設定にして、ストーリーなどどうでもいいけどアクションを見せたいんだ、という開き直った映画の方がよほどスカッとするのではないか。
この作品がかろうじて見ごたえを残しているのは、ジョン・マルコヴィッチの存在によるところが大きい。そもそも彼の演じている人物が謎だらけなのだが、設定の穴などねじ伏せるほどの存在感がある。演じている人物像ではなくジョン・マルコヴィッチの力であろう。悪役として登場するコリン・ファレルも大迫力だ。これまた、人物像ではなく俳優としての彼の魅力によるところが大きい。つまりもはやこの作品において脚本などどうでもよく、内容がどうであれキャスティングが見事なので彼らの芝居でなんとかしてしまうのだ。
そのため、今さらなんの新しさも感じない作品ではあるのに、見ごたえはないのかと言えばそんなことはない。ストーリーに何一つ期待しないとしても十分楽しめるのだ。