内容のー部もしくは全部が変更されてる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
- ⓒ2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.
イギリスの伝統的文化の影に隠れて大量の大麻を栽培する裏社会のボス。彼に私怨で復讐しようとするタブロイド紙の編集者。物語は、その編集者に雇われた探偵がボスの右腕である男をゆするシーンという形で始まる。この探偵をヒュー・グラントが演じており、その芝居が大きな見どころの一つになっている。物語は終盤までこの探偵の語る内容として回想シーンのように描かれ、終盤でゆすっているシーンに合流してその先が描かれる。
裏社会のエピソードはそれぞれが個々の思惑で取引したり出し抜いたりの駆け引きで、それを探偵がギャングをゆするという駆け引きの中で語るため、隅々まで騙し合いに満ちている。登場人物は全員自分の益のために動いており、それぞれが用意周到だ。その入り組んだ構造をヒュー・グラントの軽妙な語りに乗せ、一時も飽きさせることなく引っ張ってゆく。最後に笑うのが誰なのか最後までわからない。
随所にユーモアも混ぜながら描かれる裏社会の入り組んだ出し抜き合い。主要な人物は一癖も二癖もあるおじさんばかり。そんなおじさんたちのダンディズムを、ぜひそれぞれのファッションにも注目して楽しんでもらいたい。。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
タブロイド紙の編集者がギャングのボスに私怨で復讐しようとする。編集者は探偵を雇い、その探偵がボスの右腕をゆする。巨視的に見ると代理戦争みたいな構造になっている。映画はこのゆすりのシーンからスタートし、探偵の語る物語として回想的に描かれるため、前半は彼の調査結果とそれに基づいた想像による物語になっている。そのため、一部時間が前後したり、想像した展開と実際が異なり、流れたシーンが巻き戻って修正されたりする。あり得たかもしれない物語が小気味よいテンポで繰り出される。
さらに、単なる回想ではなく「ゆすり」のネタという形であるため、この語り自体にも下心が潜んでいるし、相手を出し抜こうとする意図が含まれている。もちろん相手もギャングのボスの右腕だから一筋縄ではいかない。物語の隅々まで周到に張り巡らされた根回しが行き届いている。誰かが根回しすれば、相手はその下に先に根を張っている。この構造がいくつも複雑に絡み合っていて、どこまで掘り下げても誰かの根回しがある。
この作品の大きな魅力は、描こうとしている裏世界の物語を、この「ゆすりのネタ」という形にしたところだ。途中までは回想シーンで、この回想シーンで探偵は物語の外にいるため、彼は観察者のような位置だ。映画のカメラの役割を果たしている。ところが物語は彼の「ゆすり」の現場で語られているため、その時点で彼は物語の登場人物になっている。終盤で回想がゆすりの現場に合流し、そこから更に裏のかき合いが始まる。見終えて思い返せば思い返すほど、よくできた脚本だし面白い映画だと感じる。