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- ⓒ2021映画「ヒノマルソウル」製作委員会
1998年に開催された長野オリンピック。そのスキージャンプ団体で獲得した金メダルの裏にあった、テストジャンパーたちの活躍を描いた作品だ。事実をもとにした作品ということだが、舞台挨拶に原田選手、西方選手(長野五輪ではテストジャンパー)等が登壇するなど、当人たち公認という形での制作となっているため、おそらく事実からの大きな逸脱はないものと想像される。このような出来事があったこと自体初めて知ったという驚きはもちろん、丁寧に描かれたジャンパーたちの葛藤が刺さる。
スキージャンプという競技の持つ特質を軸に、選手生命の問題や故障との闘いを通してアスリートの生きざまのようなものを描いている。同時に無責任なメディアや観客の投げる心無い言葉も描かれ、オリンピックというイベントの持つ陰と陽それぞれの局面を描き出している。「なんでおれはこんなことをやってるんだろう」。何度も去来する疑問。内側でねじれ絡まっていく思いと闘いながらその「意味」を見つけていく。予想を超えて丁寧に描かれる選手たちの心理は見る者の心を打つ。一方でオリンピックがもたらすメダル至上的な高揚の異様さも浮き彫りになり、シンプルな感動だけではない後味が残る。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
事実をもとにした作品なのでネタバレのような要素はない。金メダルを獲得したことがわかっているオリンピックでの、そのいきさつを選手たちではなくそれを支えた裏方に着目して描いた作品だ。テストジャンパーのジャンプによって大会の中断か続行かを決定する、といった事態があのとき起こっていたということも知らなかった私は、まずその事実そのものに驚いた。テストジャンパーのような人が存在するであろうことは想像していたけれど、このような組織されたチームで行われているとは知らなかった。それに、一つ前のオリンピックで銀メダルを取った日本代表の選手が、長野でテストジャンパーをしていたことも知らなかった。そこに葛藤がないはずはない。このエピソードがもう、ドラマになる。逆にこれまであまりスポットを当てられていなかったことが不思議なほどだ。
映画ではおそらくテストジャンパーチームに脚色を加え、事実とは異なる人物を配置したりしているのだろう。でも脚色の仕方が絶妙であるため大きくリアリティを損なうようなことにはなっておらず、それぞれが持ち込むドラマも実在の主人公を成長させるきっかけになっていて自然だ。おかげでとても満足度の高い作品に仕上がっている。
ところで、この映画を見たほとんどすべての人が思うであろう。原田選手を演じた濱津隆之が本人にそっくりであると。彼はあれです。「カメラを止めるな!」の人。彼をおいてほかに原田選手を演じる俳優はおらんでしょう。実在の、それも存命中の人物を演じるというのはなかなか難しい要素が多いでしょう。それをこのようなレベルで演じているのは驚くべきことなのではないかと、思うわけです。