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夏至を過ぎ、短い夏は刻一刻と終わりに近づいている。7月の暑い日差しが降り注ぐなか、豊岡方面へ車を走らせた。打合せを終え、近道がしたくて普段はあまり通らない道で会社へ戻る途中、入口が見えないほど茂みに覆われたある建物に目が留まった。よし、会社に戻るのはやめだ。自分の嗅覚の赴くまま、開け放たれた扉の向こうへ誘われるように足を踏み入れた。
ひとたび中に入ると、まるで時が止まったような景色が広がる。コーヒーの香りと共に漂う灰色がかった煙たい空気。カウンターでは常連さんが煙草をくゆらせながら、午後のひとときを過ごしている。外観もさることながら〝絵になる”とはこのこと。色の剥げた背の低いテーブルやチェア、天井から吊るされる年季の入ったランプを見ていると、ここだけ時代から取り残されているようだ。窓から陽が射す一番奥の席に座り、アイスコーヒー(400円)を注文した。
マスターが30歳の時に始めて今年で42年。内装や外構を自らが手掛け、駅前倉庫が解体されたときのレンガを使ったアプローチには、特に思い入れがあるそう。数百とあった喫茶店のなかでも、若い世代が集まる場所だったというが、さすがに今は昔のように惚れた腫れたの賑やかな社交場としての面影はなく、ひっそりと静かな時間が流れている。「忙しいのはわかるけどさ、若い人たちにはもっと余裕が必要だよ」と、マスターは笑った。グラスには水滴が滴っていた。カランという音とともに一口。雑味のないすっきりとした味わいが、渇いた喉を潤していく。
時間をかけて淹れてもらう一杯には、忙しない日常をリセットしてくれる力があるように思う。1人、また1人と訪れる常連客は、他愛もない話をして楽しそうに笑っている。深呼吸して一休み。コンビニの駐車場では味わえない、本当の意味での〝一服”を味わった。飲み干した頃、店内のFMラジオからは最新のヒット曲が流れていた。タイムスリップでもしたような不思議な感覚のなか、次の仕事へと向かった。(文/武山 勝哉)
セントポーリア
旭川市8条通23丁目353-110
☎0166-34-5930
営/11:00〜19:00
休/火曜