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- ⓒ2021「犬部!」製作委員会
冒頭で「フィクションである」と強調されるけれど、原作がノンフィクション作品であるため、脚色はあるものの真に迫る内容だ。
獣医学部を舞台に、主に愛玩動物の命について考えさせられる物語。獣医を志す人というのは人一倍動物を愛しているだろう。一つでも多くの命を救いたい。その同じ願いへ至る道は一つではない。獣医になる者、研究者になる者、動物愛護センターへ行く者。動物を愛しているという共通点を持つ若者たちがそれぞれの方法で命を救おうとする。高い理想を掲げて挑むどの道にも、しかし困難は立ちはだかる。
行き場のない愛玩動物の殺処分を減らす。その難しさを痛感する。そこに対して犬部のようなサークル活動で一石投じようとする若者の存在は心強い。一方で大人になった彼らが直面する現実的な問題は大きい。何事も若い者たちの理想は大人の現実によって砕かれがちだ。しかしそれでも理想を掲げなければ前進はない。成長した彼らが問題の落としどころを探り、できることから一つずつ進めていく姿にわが身を省みる。
犬好きの諸氏はもちろんのこと、そうでない人たちにも彼らの生き方は希望をくれるだろう。今できることが、きっとある。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
保健所の動物愛護センター。殺処分の行われるその場所に「愛護」の名がついている。皮肉でもなんでもない、冷酷な現実がそこにある。本作には、獣医学部から動物愛護センターの所長を目指す若者が登場する。殺処分をゼロにするため、その殺処分が行われる現場へ行く、という発想だ。それはあまりに苦しく、険しい道だ。しかし本作を見て初めて知ったのだが、動物愛護センター長というのは獣医の資格を持っている必要があるらしい。動物を救いたいという思いを持って獣医になった者が、動物たちを「処分」する現場を任される。もちろんだからこそ、殺処分数が減少傾向になるということだ。減らしたいと思っている人たちが奮闘しているからこそ、それが数字に表れる。でもその現実はあまりに残酷だ。本作でもこの険しい道を選択した柴崎という若者は、センターでの仕事をするうちに折れてしまう。人一倍優しい心を持った若者に、現実は残酷すぎるのだ。
ペットとして気軽に飼い始め、思ったよりも大変だったから飼うのをやめる。そういう無責任さが殺処分の問題を引き起こしているのは言うまでもない。昨今、そこにSNS映えの問題が追加され、再びこの問題は拡大傾向にある。愛嬌を振りまく犬猫の様子がSNSで広まる。愛らしいペットの映像はバズりやすい。かわいい。自分も飼ってみたい。そんな気持ちを促す要素はそこら中に溢れている。そして飼ってみれば動物にはもちろん個体差があり、丁寧にしつけたとしてもSNSで見るような愛嬌を自分のペットは見せないかもしれない。すると「思っていたのと違う」が生じる。かつてのペットブームとは違った形で、再びうわべだけを見て欲しがる人が増え、手に負えなくて手放すという事態も増える。欲しがる人が増えれば売ろうとする人も増え、悪質な販売業者も増えるだろう。こうした問題は資本主義的な利益が絡むことで止めるのが難しくなる。
この映画は犬や猫を愛でる人物がたくさん登場するのに、「犬かわいい最高」みたいな方向にはまったく行かない。見せるべきものを見せ、しっかり問題提起を行っていると思う。そういう意味で強い思いを持って作られた映画だと感じるし、ノンフィクション原作を脚色した作品としても真摯な姿勢を感じる。