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これは意外にも恋愛映画だ。予告編を見ると「ゲームのモブキャラクタ(いわゆるその他大勢)の一人を主人公にした作品」という印象を受ける。ゲームを題材にした、突出した何かを持たない平凡な人が夢を掴む話、みたいなものを想像して「興味ない」と思っていた人にもちょっと待ってほしい。たしかにこの作品はゲームのモブキャラクタが意思を持って動き始めるという話なのだけれど、描かれているのはラブ・ストーリーなのだ。だいぶ変わった形の恋愛映画と言える。
舞台はオンラインゲームで、近年のスタイルであるゲーム実況配信プレイヤーなどの描写もあり、ゲーム用語も満載だ。でもそういった要素は本筋ではない。たまたま舞台がゲームだっただけなのである。ゲームのことがよくわからなくても十分楽しめるし、意味もわかる。人工知能の話が重要な部分を占めてはいるけれど、それを前面に出したSFではないのでそういったテクノロジーのことがわからなくても問題ない。ゲームの展開を現実風の風景に持ち込んでいるのであれこれ過剰で滑稽だし、映像的にも派手だけれど、予告編からは想像もしなかったほどピュア・ラブ。この意外なほっこりをぜひ味わってほしい。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
ゲーム世界のモブキャラ、いわゆるNPC(ノン・プレイヤー・キャラクタ)を主人公にした作品。過去にも似たような設定の作品はあったような気がするけれど、この作品は一風変わっている。このNPCはただのNPCではなく、先進的なAI、人工知能なのである。現実世界でこの先進的AIを開発した若者が、うさんくさいゲーム会社のオーナーにこの技術を盗用された、というような話になっている。ゲームは盗用を隠蔽した状態で運営されており、盗用されたオリジナルの作者たちがその証拠を見出すために奮闘する、というような物語なのだ。
この先進的技術がNPCを進化させ、規定の動きから外れた行動を取らせる。ゲーム世界でのこの進化したNPC、言ってしまえばデジタル生命体と、ゲームの外の世界を並行して描きながら物語が進む。途中、プレイヤーキャラとNPCの恋愛みたいな話になりはするものの、「her/世界でひとつの彼女」みたいに人間とAIの恋愛という形に終始するわけでもない。進化してもAIはあくまでプログラムであるという姿勢は崩さず、プログラムにはそれを書いたプログラマが存在する、という方向へ持っていく。この辺が実にうまい。
見れば見るほどに、この作品は世界観の設定がとてもうまくハマっていると感じる。人工知能技術の登用という設定が見事で、AIと協力して悪を打倒する部分も面白い。さらにはラストの着地も素晴らしい。AIとプレイヤーを操作している人間は文字通り住んでいる世界が違う。AIがあくまでプログラムであれば、それを書いた人間が存在する。AIそれ自体がメッセージであるという本作のラストは、この作品全体が一通のラブレターであったかのような後味を残す。これはSFのような皮をかぶっているけれど、まぎれもなく恋愛映画だと感じた。