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極度の温暖化と海面上昇により没しつつある世界。そんな未来を舞台に、記憶の中へ没入するという技術を描いたSFサスペンス作品なのだが、思った以上に「愛」だった。
思い出に浸れるサービスとその技術を使った犯罪捜査が絡み合い、複雑な物語が次第に明らかになる。各所で「記憶ってそんなに精確かしら」という疑問が頭をもたげるが、ある程度それに目をつむれば次第にパズルのピースがはまっていくような展開はスリリングだ。しかし、SF的世界観と水没した世界のビジュアル、その未来社会の図式を絡め、周到に偽りで隠された事件の全貌といった要素を配置しながらも、この作品で描かれているのは「愛」だという印象を受ける。
誰かを「知る」ということ。誰かを「愛す」ということ。それはいったいどういうことだろう。誰かを知ることでその人物が記憶の中に像を結ぶ。その像は決して本人ではない。愛の対象になっているのは果たして相手本人なのか、それとも自分の内側にできたその人の像なのか。はっきりとそこにあるはずの差がはっきりとは見えない。
見終えたあなたの中にはきっと、この作品が提起した問題意識のいくつかが根付いているだろう。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
思えば本当にいくつもの問題を提起する作品だ。
もし脳に記憶された情報の中へ入っていけるとしたら。きっかけはきっとそんなSF的ワンダーの「もし」だろう。
実際のところ、脳がどのようにして物事を記憶しているのかという部分はまだ解明されていない。記憶は日々整理、リンクされているが、「思い出す」メソッドがそれをどのようにして引っ張り出すのかも、定かではない。おそらくこの映画に描かれているような、ある時間、ある場所での出来事が丸ごと記憶されていて、その時その場所を丸ごと再現できたりはしないだろう。記憶はもっと要素の断片で、「思い出す」はその断片からシーンを再構築する。そのため、思い出すたびにディテールが変化したりし、古い記憶になればなるほど、細部は事実と異なっていく。
この、記憶は時間が経つにつれて事実から離れる、という要素を盛り込んだらもっと面白いSFになったような気がする。そこまでやるとよりややこしい話になるのでこの落としどころで良いのかもしれないが、この作品で描かれている「記憶」はあまりにも完全なその時間の「記録」になってしまっていて、それが一歩引いてしまう原因にもなっている。
主人公は記憶潜入技術を用いたサービスを運営している男で、その仕事で出会った一人の女に恋をする。この女が失踪し、その後思っていたのとは全然違う人だったのではないかという疑いが浮上する。物語はここから大きな犯罪とリンクしていくのだが、知っていると思っていた人が実は思ったような人ではなかった、という事例は実際にいくつもあるだろう。
「情報」があまりにも溢れかえっている現代。「知る」の意味はどんどん薄まっている。知っている、わかっていると思っているようなことを、自分は本当に知っている、わかっているのだろうか。正しい、正しくないといったジャッジがその薄っぺらい「知る」の上で行われているのではないか。この作品はそんなことまでも、思い起こさせる。