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ここ数年急に増えてきた、ポピュラー音楽の巨人の半生を描く伝記映画。本作はそのアレサ・フランクリン版と言える。タイトルになっている「リスペクト」はアレサ・フランクリンが初めて全米1位を獲得した楽曲でもある。
波乱万丈という言葉があるが、まさに彼女の人生は波乱万丈である。わたしは、アレサ・フランクリンと言えばソウル・ミュージックのスターという印象を持っており、2018年に亡くなった際のニュースでその輝かしい足跡の一端を知った程度であった。本作を見て初めて、その波乱に満ちた人生と、人種差別や男尊女卑の中で戦い続けてきた姿勢を知ることになった。もちろん往年の名曲も満載でとても楽しめるのだが、少々長すぎる印象は受けた。
主演のジェニファー・ハドソンは若き日のアレサ・フランクリンそっくりで、劇中映像に実際のレコードジャケットが重なってもほとんど違和感がない。ミュージカル映画などへの出演も多い彼女は歌唱力も申し分なく、歌うシーンも大変な迫力で演じ切っている。
アレサ・フランクリンの半生はもちろん、ゴスペルの文化も垣間見ることができる映画である。劇場でぜひこの迫力の歌声を堪能してほしい。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
例によって伝記映画であるためネタバレ的な要素はない。本作はソウルの女王と呼ばれるアレサ・フランクリンの半生、教会で歌っていた少女時代からデビュー後ヒットを飛ばしてスターになっていくあたりまでを描いた作品だ。それ以降の話は駆け足気味に描かれる。「波乱に満ちた人生」と言えばなんとも陳腐な感じになるが、まさに彼女の人生は波乱に満ちている。強い部分と弱い部分を合わせ持ち、あるとき苦難へ立ち向かっていく勇気を見せたかと思えば、別の瞬間には荒れて酒におぼれたりする。感情的になったり、虚栄にまみれたり、焦ったり迷ったりする。ソウルの女王として孤高の人のような印象を持っていたけれど、ここに描かれているのはきわめて人間臭い一人の人であった。人種差別や家父長制の中で虐げながらも立ち上がり、はっきりと意思表示をしていく。そこにはたしかに強さがあるのだけれど、その強さはとても危うく、脆いものだった。
稀有な才能と輝きを持った人であるのは間違いない。でも一方で弱さを持った普通の人でもあった。この作品の良さは、アレサ・フランクリンのスター性ではなく、そのすぐ裏にあった弱さの部分を丁寧に描いているように感じた。彼女を取り巻く人物たちの愛や優しさと打算。大切な事を見失って制御できなくなる気持ち。そういったことが細やかに描かれている。
一方で、彼女の半生のうちどこに焦点を合わせて描くのか、という点が曖昧になっており、上映時間が2時間20分もあることも相まって少々冗長な印象を受ける。ナンバーワンヒットに向けて作品制作をしている辺りが最高潮で、そこから後のシーンは不安定になっていく部分とそこから立ち直る部分が描かれるのだが、スピリチュアルな展開になりすぎてあまり没入できなかった。名作「アメイジング・グレイス」の収録シーンは後半のクライマックスになり得るはずだが、前半ほどの盛り上がりには欠け、いまいちこの作品の良さが伝わっていない気がした。
貴重な内容が描かれ見事な歌もある良質な作品ではありながら、少々エンターテイメント性に欠け、単なる伝記映画としては少々長すぎるという微妙な結果になっている気がした。