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- ⓒ2021 musicophilia film partners ⓒさそうあきら/双葉社
芸術ってよくわからない。特に現代美術とか現代音楽、なにをやっているのか、どう楽しめばいいのかわからない。そういう人は決して少なくないだろう。この映画は音楽の世界を舞台にしたドラマを描いているのだが、広く芸術全般に通ずるような芸術家の姿勢を垣間見ることができる。
主人公は美術学部に入学しながらなぜか現代音楽研究会という少々風変わりな人々の集まるサークルに巻き込まれてしまう。一般に難解だと思われがちな現代音楽を、このサークルの人々がわかりやすく教えてくれる。顧問の先生が軽い講義をするシーンもあるし、会員たちが制作や表現を行うシーンもある。
物語の主軸は、天才的素質を持った主人公と音楽界のエリートでもあるサークルの創始者との対比と衝突だ。二人の間には避けがたい因縁と確執があり、その大きな溝が物語全体を分断している。周辺に配置された小さなエピソードも相まって、音楽とはなにか、ひいては、芸術とはなにか、創作とは、表現とはなにかといったテーマを考えさせられる作品に仕上がっている。なんらかの創作をする人にはぜひ見てもらいたい作品だ。
帰り道でつい口ずさみたくなる主題歌もとても良い。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
冒頭から主人公はなんらかの事情を抱えているらしいことが窺える。物語の軸はこの主人公と著名な音楽家の息子で将来を期待される音楽家でもある人物との対比にあるのだが、実は主人公も同じ音楽家の私生児なのだ。つまり天才主人公とエリート音楽家は異母兄弟なのである。さらに、主人公の母親は父のゼミ生であったという事実が語られ、さらに主人公たちの通う大学の講師陣はその父の弟子や教え子が多い。ここに音楽大学の学内派閥の問題や徒弟制の問題などが見え隠れする。音楽もので天才とエリートの対決という図式は珍しくなく、これまでにも数多く描かれてきている。しかしその周辺にある諸問題や、エリート側においても先進的な芸術を追うものと古典偏重の学派の対立などを描いたものはあまり記憶になく、また、中心に現代音楽があるというのも新しい印象を受けた。
冒頭、主人公が現代音楽研究会に巻き込まれていく様や、このサークルに関わる人々のシーンはとても楽しい。一見謎めいた、これが本当に音楽なのかと疑問になるような現代音楽において、その創作者が何を考えているのか、どのようにしてその表現に至っているのか、といったことが垣間見られる。さらに、濱田マリ扮するこのサークルの顧問は、作中のいろいろなところで重要なことを話す。
この作品は芸術鑑賞の入門として、同時に芸術創作の入門としても、確かな足がかりになりそうな作品だと思う。