内容のー部もしくは全部が変更されてる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。
- ⓒBNP, FUJITV/おしゃれサロンなつなぎ
ハワイアンをテーマにしたリゾート施設に、専属フラダンサーとして就職した主人公。彼女と同期入社の仲間たちが日々をひたむきに生きる姿を描いたアニメ作品である。アイドルものなど、アニメでダンスを描くものは多いのだが、フラダンスというのはこれまで出ているものに比してゆったりした踊りであるし、派手さに欠けるのではないか、新人の成長ものと言ってもそれほど大きな起伏は無いのではないか、など、予告編を見た時点ではいろいろな不安を抱いていた。
たしかに派手さはほとんどない。静かな日常を描いた優しい作品であった。でもなぜだか、計り知れない感動が押し寄せる。何がそんなに良かったのかと振り返ってみてもよくわからない。小さなエピソードの一つ一つが心の深いところに染み入っていき、眼球の底の方からこんこんと涙が湧き出してくる。
観客を笑顔にしたいと願う主人公たち。飽きさせないための大きなエピソードを置かず、ただ淡々と、彼女たちの日常を描いている。まっすぐな人をまっすぐに描くだけで、派手なことなど何一つ起きなくても飽きさせずに観客を笑顔にできるということを、この作品は作品自体が体現しているのだ。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
例によって見る前には特に情報を集めたりはしないようにしているので、この作品も予告編を一回見ただけで劇場に出向いた。エンドロールでいわき市が後援していることを知り、そういえば震災に絡めたエピソードもあったし、震災復興の一環なのか、と思った。帰宅後に調べてみて驚いた。この作品に登場する、主人公たちが就職するリゾート施設、「スパリゾート・ハワイアンズ」というのはいわき市に実在するのである。いや、私が知らなかっただけで、かなり古くからあるようなので有名なのかもしれない。
これは実在の施設を舞台に、行政が後援して作ったアニメ映画なのだ。もちろん町おこし的な意味合いを大いに含んでいるものであろう。だいたいにおいて、行政が主導して町おこしアニメみたいなものを作っても、なかなか町おこしにはつながらない。理由はシンプルで、「この作品で町おこしをしたいんですよ」感が作品に表れてしまうからだ。アニメファンはそういう空気に敏感なので、白けてしまうのである。
町おこしとして成功した例は、『ガールズ・アンド・パンツァー』シリーズで盛り上がった大洗市のように、行政が絡むのではなく、まったく関係なく作られた作品の舞台が自然に盛り上がる、という流れが多い。
翻ってこの作品を見ると、私はエンドロールを見るまで行政の関与をまったく感じなかった。実在のリゾートを描いているのに、そのリゾートのCM映像みたいにもなっていなかった。あくまで、主人公と仲間たちのひたむきな日々を描いた作品であったため、深く感動したのだ。
この作品がいわき市やスパリゾート・ハワイアンズにとって、町おこしの成功例となるかどうかは、現時点ではまだわからない。でもなるような気がする。なぜこれがうまくいきそうだと思うのかと言えば、それはもうシンプルに、作品自体がとても良く、「町おこし感」がまったく無いからだ。もしこれが成功例となれば、各地で行政がしっかり予算を組んでアニメ作品を後援し、この作品のような優しく丁寧な作品が作られるようになるかもしれない。そういう未来を期待したい。