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歳とともに嫌になることは多々あるが、自分にとってはこの厳しい寒さもそのひとつ。真冬でも学ラン一丁が当たり前だったあの頃の面影はなく、数年前から暖かいインナーが手放せなくなっている。初雪に心躍らせていたあの気持ちは、もう忘れた。昨日も雪がよく降った。昼にはまだ早いが仕方がない。腹が減ったのだ。
前を通る度にずっと気になっていたお店だった。外観から滲み出る、一見さんを寄せ付けないオーラにそそられる。木でできた味のある扉を開けると、漫画やレコード、様々な骨董品が並んだレトロなムードが漂う。朝の雪はねでひと仕事終えた気持ちをきゅっと締めるには、モーニング(550円)がちょうどいい。
この場所では19年。喫茶店歴は50年にもなる店主の廣瀬さん。ハンドドリップで淹れるストレートのコーヒーとおしゃべり好きの性格に、常連さんも惹きつけられるのだろう。談笑しながらも数分で料理がでてきた。野菜たっぷりのサラダと、トーストの上には絶妙な焼き加減の目玉焼き。この時期にうれしいみかんもついている。目が覚めるような、ほっとするような、コーヒーのいい香りがする。アボカドと豆腐を明太子で和えたサラダは優しい味がした。「食べてもらうものは健康的な方がいいでしょ」と、お客さんを気遣いながら「今日は吉野家の牛丼が食べたいわ~」というところがチャーミングだ。世代を超えて愛され続けている理由を見た気がした。
歳とともに嫌になることもあれば、輝きを増すものだってある。今や常連さんが勝手にかけるという、店に流れるレコードの音色もそのひとつ。そんな前向きな変化を探し、数えていった方が、きっと人生は楽しくなるはず。コーヒーを飲もうと手を伸ばした時、左腕に始まったばかりのわずかな筋肉痛を感じた。(文/武山 勝哉)