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『オリエント急行殺人事件』に続くケネス・ブラナー版ポアロ第二弾で、「ナイルに死す」の映画化である。原作はポアロが登場するという以外につながりのない二作だが、映画版は大胆な改変を行って『オリエント~』の続編であることが強調されるような仕掛けになっている。ケネス・ブラナー版ポアロは、エルキュール・ポアロという人物を掘り下げるという方向で、彼の名探偵としての活躍だけでなくその内面にあるものを表現しようとしている印象だ。本作ではその傾向が強まり、事件と関係ない過去のエピソードを序章に置き、ポアロという人の半生を感じさせるような作りになっている。また、前作との繋がり(それもまたポアロの経験だ)を強調するため、原作からの大幅な改変が行われている。前作に登場したブークという友人が本作にも登場するが、この人物は原作には登場しない。また、サロメ・オッタボーンはまったく違うキャラクタとして登場するなど、事件に深みを与えていた要素が減ってしまっていて前作と比較してもポアロの鋭さは感じにくい。
原作を知らずに見れば楽しめると思うけれど、原作のポアロ像が好きな人には物足りないかもしれない。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
この作品は作者にとっての異国を舞台にした物語で、そのエキゾチックな雰囲気が魅力の一つとしてある。その点について、本作はビジュアル的にはとても凝っている。一方で、この作品は原作を大胆に改変しており、登場しない人物がいたり、大幅に設定を変えられている人物がいたりする。原作では船に乗り合わせている全員に動機がある、という面白さがあるのだが、本作は乗客の設定をいろいろいじってあるせいで、犯人の候補から除外されてしまう人がいる。また、最近半ば義務感で行われている気配さえある多様性の描写についても、人種差別や同性愛などを取ってつけたような要素として盛り込んであり、違和感がある。その取ってつけたような同性愛を描くためにポアロが名推理を披露するわけだが、あまりにもご都合主義的な話であり、かえって薄っぺらくなっている気がする。このシリーズは前作からポアロという人物に深みを与えたいという意図が感じられるのだけれど、少々彼の感情的な要素を強調しすぎているようにも感じる。本作ではそのために用意された序章と後で語られるその後日談に特に蛇足感が強くあり、ポアロという孤高の名探偵の魅力を損なう結果になっているような気もする。
ケネス・ブラナーのポアロは外見的にはかなり印象が良く、ハマり役に見える。しかし彼の描こうとしているポアロ像は賛否が分かれそうだ。特に本作は、前作以上に原作からの改変が大きく、その点でも賛同を得にくいような気がする。原作では作家であるサロメをシンガーにしたのはどういう意図によるのか。仮に、多様性のために黒人を出す必要があり、黒人なら作家よりもシンガーの方が良いと判断したのであれば、そこに何らかの偏見が感じられるし、そもそも人種問題にしろ同性愛問題にしろ、わざわざ描くことでかえってそこに何らかの偏重が存在していることを感じさせる。いろんな要素が裏目に出た作品と言えるかもしれない。