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大学生のグライダーサークルを舞台にした物語。グライダーと言えば滝川辺りはその盛んな町として全国的に有名だ。本作のモデルになっているのは群馬県の熊谷のようだけれど、グライダーが上昇気流に乗って登っていく様子を見ると滝川の空を思い浮かべる人も少なくないだろう。
天然、天才系の主人公がふとしたきっかけでグライダーに触れ、その才能を発揮していくといういわゆるスポーツものだが、そのスポーツが普段あまりなじみのないものなのでとても新鮮に楽しめる。ただ序盤からいろいろな要素を配置しすぎていて、それがあまり回収されないまま進行してしまうので引っかかるところも多い。主人公が何らかの障壁を頑張って乗り越えるといった要素はなく、いろんなことが都合よく丸く収まりすぎる印象を受ける。特に、冒頭で主人公は大学に入学して「恋をしたい」と言っているのだがそれがどうなったのかよくわからない点が気になる。
ストーリーは終盤で超展開になってよくわからない要素が満載なのだが、主人公が魅力的なので見終えた後味はスッキリと心地良い。良くも悪くも主人公のキャラクタと空を飛ぶ映像の爽快感で引っ張っていく作品である。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
原作のストーリーからエピソードをかいつまんで映画化しているのか、一本の映画として見たときに必要ないと感じる要素が多い。いろいろな臭わせ、伏線などがあるのだけれど、それがちゃんと回収されないまま終わってしまうのだ。
主人公と姉の確執、その原因とわだかまりの解消が描かれるのだが、姉側の問題として姉が克服するという描き方になっている。
主人公があこがれを抱く倉持という先輩にもいろいろな事情があり、倉持はそれを一人で抱えて作品中盤で主人公たちの前から姿を消してしまう。その後起こることの大部分がご都合主義的で、あちこち疑問満載のままエンドロールになってしまう。
感じの悪い羽鳥というライバルが登場するが、ファーストコンタクトでこの羽鳥とも仲良くなってしまい、良きライバルという位置に収まってしまう。
かように、この主人公はほとんど何にも道を阻まれないし、回収しきれていない伏線も多い。そういった要素が各所でリアリティを損なっていると感じるし、スポーツもので主軸になるはずの主人公の成長という要素があまりないのも気になる。主人公は最初から天才的な才能を持っており、天真爛漫で友人関係もうまくいく。
終盤は本当に超展開とも言うべき展開になるが、これもひとえに朝比奈というキャラクタがチート的であるから可能になったことだ。同時に、朝比奈という存在が問題の原因にもなっており、エピソードを配置するためにも、そのエピソードを着地させるためにもチート的朝比奈が使われていることがご都合主義的に映る。こうした各所がいろいろと気になっていまいち入り込みにくい作品ではあるのだが、主人公はとても魅力的で、彼女がラストで安堵すると見ているわたしもそのことに安堵する、といった具合に感動はした。引っかかりが多いと感じながら見たにも関わらず後味が良いという不思議な作品であった。