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単純な欲だったものが中毒性を帯び始めると、いつしか悪夢の小路へ迷いこむことがある。
なにやらやましい過去を隠して旅をする本作の主人公は、偶然出会ったカーニバルの一座と行動を共にする。そこでとある奇術を身に着けたことが彼の運命を狂わせていく。奇術にはトリックがあり、それは言わば単なる技術なのだが、続けているうちに次第に全能感を覚えるようになる。最初は金のためにやっていたはずの芸が次第にその域に収まらなくなり、身も心も飲み込まれて行く。
本作は実に豪華な俳優陣で、この主人公の狂っていく運命の歯車を描いている。立ち止まれる場所、来た道を戻れる場所はいくつもあった。止めてくれる人もいた。しかしそれでも彼は突き進む。転がり始めた雪玉は巨大化しながら加速し、あるところからもう止められないものと化す。何か選択するたびに取り返しのつかない袋小路に向かっていく様をとても丁寧に描いていくため、本作は上映時間が二時間半もある。さすがに少々長すぎる印象もあるのだが、中盤以降の転落はスピード感があって退屈さは感じない。出演している女優たちがそれぞれに異なる美しさを発揮しているのも見どころだ。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
細かい。実に細かく描写して映像を組み立てている。緻密にやりすぎるため、これが伏線になるのだな、というのが出てきた時点で予測できてしまう。なぜこれをこんなに執拗に見せるのか、説明するのか、と感じる部分は後で端から回収されていくのだ。ただ、それが必ずしも全部必要なのかというとそうでもなく、このやり方によって少々冗長になりすぎている印象も受ける。たしかに主人公がいかにして「悪夢の小路」に迷い込んでいくのか、ということをじっくり見せてはいるのだが、それにしても150分は長すぎると感じる。
物語は中盤で心理学博士の女性が登場してから大きく動き始める。言ってしまえばそこからが本題なのだが、その前の前置きにかなり時間を使っている。前後編が一本にまとめられている印象、というのが分かりやすいかもしれない。
読心術の奇術に関する丁寧な描写はおもしろく、種明かしもあって興味深い。そしてそれを濫用するうちに全能感に飲み込まれ、次第に霊媒師のような怪しげなことになっていく展開はスリリングだ。始めは「より儲かるから」という動機であったものが、次第にその枠に収まらなくなっていく。もはや金のためにやっているのかどうかもわからなくなる。
ラストは序盤で予想した通りの展開になるのだが、「読心術はもう古い」という時代にあってなお「獣人」の方はニーズがある、というのはどうなのだろうか。この当時のアメリカのカーニバルがどういうものだったのかよく知らないので何とも言えないのだが、読心術は古いのに獣人が古くないという話にリアリティはあるのだろうか。個人的にはどうもこの点が引っかかって、物語を円環させて序盤の伏線を回収するための設定のように見えた。
この作品はこのような主人公の転落を描いた物語であり、それをとても丁寧に演出しているのは間違いないのだが、それ以外の要素でよくわからないところがいくつもある。もう一度見ればわかるのかもしれないが、なぜそういう描き方になっているのだろうか、と気になるところがいくつもあった。特に冒頭から出てきて途中少しずつ状況が見えてくる主人公と父親とのシーンは、後から出てきたシーンが最初に提示された火をつけるシーンに繋がらず、見終えてなお何かを見落としたのではないかという思いに苛まれている。配信が始まったらぜひもう一度見直してみたい。