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言葉にならない。じんわりと温かい気持ちが広がって、それぞれのシーンが思い出され、「ああよかった」と思う。この映画に出会えてよかったと、思う。
独身中年男が、妹の家庭の事情により、9歳の甥を預かることになる。子育てをしたことのない中年のおじさんと、その甥。それほど長い期間ではない二人の交流を描いた物語が、多くの気づきと学びをくれる。
この作品は考えれば考えるほど、あらゆる要素が完璧に組み上げられているのだ。少年を預かる伯父さんはラジオジャーナリストで、各地を飛び回って子どもたちにインタビューをしている。言わば子どもたちの肉声を集めるのが仕事なのだ。取材で得られた子どもたちの言葉と、彼のすぐそばにいる少年の言葉。さらにこの伯父さんは自ら日記代わりに音声を録音する。これらの肉声が組み上げられて作品が出来ており、さらに映像はモノクロ撮影されている。映像の情報量を減らし、音に集中させる。この演出がとても新鮮に映るのだが、作品に込められたメッセージを表現するにはこれ以上ないと思えるほどに完成されている。
子どもたちの言葉に耳を傾ける。それがかけがえのない体験であることをこの作品は思い出させてくれる。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
見事としか言いようがなかった。込められたメッセージとそれを表現するのに最適な演出。加えて伯父さんを演じるホアキン・フェニックスはもちろんのこと、少年の演技も見事だ。
9歳の少年は扱いが難しく、端的に言うと厄介だ。子育てを経験していない伯父さんにとって、それは想像を超えた出来事だった。彼は仕事柄常に録音機材を持ち歩いている。預かった少年を伴い、機材を持って出かける。もちろん少年は興味を持つ。興味を持った少年に機材一式を貸し、環境音を録音して回るシーンが描かれる。世界の「音」に興味を持った少年は目を輝かせて録音を続ける。そんなシーンがいくつも描かれる。海岸、公園、都会の雑踏。伯父さんは少年の興味に任せて自由に録音させる。ついには「君の録音した音を僕の番組のバックグラウンドに流そうか」といったことまで言い出す。
この話はあっさりと流れて行き、その場のノリで出たただの思い付きにすぎなかったように見えるのだが、エンドロールで流れる音声は、まさに少年がこのあたりのシーンで録音した音を背景に、伯父さんが取材した子どもたちの言葉が乗せられたものなのだ。ああ、あの時言っていたことを、彼は実現したのだなとわかる。あれは軽い言葉だったけれど約束だったのだ。彼は少年との約束をちゃんと守ったのである。エンドロールの音声にここまで見てきた作品のすべてが詰まっている。未来を担う子どもたちの言葉は強く響き、「先のことはわからないから進むしかない」という少年の言葉を想起させる。それがまさにこの映画のタイトル。カモン。カモン。あらゆる要素が完全なバランスで組み上がる上質なパズルのような映画だった。重ね重ね、この映画に出会えてよかったと思う。