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少し寂しげだった街にも徐々に明かりが灯りはじめ、かつての彩りを取り戻しているような。毎年行われていた祭りも開催され、賑やかで心地の良い音が、まだ新しいビルの合間を通り抜けていく。長くなった日が傾いてきた頃、前から気になっていたこのお店に立ち寄った。
道北一の歓楽街さんろくで、40年以上営業している喫茶店。入ったことはなかったが、店の前を通る時はいつも気分がよかった気がする。かすかな記憶に残っているのは、煙草とアルコールの匂いぐらいか。ドアを開けると、味のある一枚板のカウンターやアンティークのランプに目を奪われた。しっとりとしたピアノの音色と、ふわっと立ちこめる花の香りが、日常との繋がりをぷつっと遮断する。仕事終わりで疲れた体は、甘いものを求めている。メニューをひと通り見た後で、ホットケーキ(600円)とコーヒー(500円)を注文した。
カウンターの奥に目を向け、ママが好きで集めているという骨董品や、絵画を眺める。趣味と感性、長い歳月でしか作りえない空間に、ほのかな甘い香りが漂った。薄暗い店内に白く映える、ほどよく溶けたバター。メープルシロップは断面にもしっかりと染み込み、じゅわっとした食感がなんともいえない幸福感を連れてくる。コーヒーの苦みとともに、最後の一口までじっくりと味わった。
「場所柄、色んな人が来るから毎日がドラマみたい」とママ。べろべろに酔ってくだを巻くようなお客さんにも、変わらず丁寧な仕事でコーヒーを淹れている。たまには、現実から離れて寄り道するのもいいじゃないか。夢うつつのなか、ずっしりとした胃袋の重みは、まごうことなき現実。その感触を目印に、ネオンに照らされながら帰路についた。(文/武山 勝哉)
可愛いお店 喫茶なん
旭川市3条通6丁目左6
☎0166-23-8143
営/18:00-翌3:00
休/年中無休