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1980年代の日本を主人公の回想という形で描く作品。80年代に小学生という設定が私自身と重なるため、ひときわ懐かしさを感じた。
主人公はいろいろな事情を抱えながら年を重ねつつある男性。彼は悩みながら小説を書こうとしている。彼が一行目を書きはじめたとき、少年時代の思い出がよみがえってくる。本作はその回想で大部分が構成されている。
一人の少年のある夏休みの出来事が描かれている。少年たちにとっては少し背伸びした大冒険。同時代を生きてきた私にはとてもリアルなのだが、考えてみると今の子どもたちはここからだいぶ遠いところを生きているのだろう。どちらが良いということはないのだが、今の少年たちにも、こういう夏休みもあるというのは見せたい気がする。特に少年たちと周囲の大人たちの関係性が素敵だ。少年たちのちょっとはみ出した冒険。それを見守り、支えてくれる大人の存在。粗野な父ちゃんも、果樹園のおやじも、みんな粋だ。
時代は移ろいゆくもの。懐古趣味になるのも良くない。でもこの昭和的夏休みには、今改めて見直すべき何かがあるような気がした。いつの時代もきっと少年はどうしようもなく少年なのだから。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
本編の主軸は回想で、主人公のあまり売れていない作家が、おそらく私小説的な小説として今まさに書こうとしているものがこの本編という構成になっている。本作の主人公はこの作家であり、回想部分の主人公は少年時代の彼、ということになる。この作家を草彅剛が演じていて、現代のシーンでは俳優として画面に登場し、回想に入るところではナレーションをしている。改めて感じたけれど、草彅剛のナレーションというのは独特の味わいがある。決して活舌が良いわけではないのだけれど、穏やかに話す声はじんわりと染み入るようで、古き良き昭和の夏へと誘ってくれる。
主人公は国語だけが得意で他はダメという特徴的な人物で、作文系の課題で高評価を得ている。クラスに友だちも多く、いわゆるスクールカーストで上層にいるというイメージだ。彼の家庭は粗野だけれどとても熱く優しいお父さんと、その強面の父さんをしっかりコントロールしている迫力の母さん、そしてちょっと生意気な弟がいる。昭和の核家族の典型みたいな家庭で、怒号飛び交っていても円満だし温かい。対して主人公がある夏を共にする級友の竹本という少年はクラスのつまはじき者だ。どうやら家庭が貧しく、それを理由にバカにされている。よく、最近のいじめは陰湿だということが言われるが、昭和のこれはどうなのかと言えば、陰湿ではないかもしれないが大っぴらに暴力ではある。そんなひどい扱いに晒されながらも強く生きている竹本は家庭に問題を抱えている。漁師だった父親は亡くなっていて、しかも兄弟が多い。子だくさんを母一人で育てているため貧しいし行き届かない。不運だがこうした家庭に差し伸べられる手はない。そしてあろうことか、一人でひたむきに家族を支えようとしていたお母さんも途中で事故死してしまう。不遇どころではない。
こうして書き出してみるとかなりステレオタイプな描き方になっているとも言えるが、本編を見ていてそれほど気にはならなかった。やはりそこは俳優の力によるだろう。それぞれの人物がそれぞれに魅力的で、ちょい役で出てくるヤンキーに至るまで全員魅力に溢れている。
美しい風景、そこに満ちている音、人情味あふれる人々。日本映画の持つ味わいが全部詰まった作品だ。子どもにも見てほしい作品だが、どちらかというと子育てをしている大人に見てほしい作品である。