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ガラスを溶かすための溶解炉が設置された工房は、夏は50度近くの暑さになります。約1300度の炉から溶けたガラスを取り出し、手早く形に仕上げていくガラス工芸。北の嵐山にある「淳工房」代表の菅井淳介さんは、この道30年以上のベテランです。創作の源である表現衝動はまだまだあふれています。
高校までは、美術と音楽に夢中になりました。美術の世界へ進むことを決意して進学した大学では油彩画を中心に学びました。ガラス工芸との出会いも大学時代。アルバイトの帰りに電車を待つ美瑛駅の待合室でした。雨に濡れる午後のまちをぼんやり眺めていたとき、ふと窓ガラスの存在に気付きました。風景と自分の間に存在する「ガラス」。古い板ガラスを通して見るまちの風景は、微妙に歪んでいたのを覚えています。「ふだんは気配を消しているガラスの存在に気付いた瞬間でした。ものがあるというのはこういうことなんだ…と」。それから表現ということを深く考えるようになりました。
大学では独学で板ガラスを切ったり、炙ったりして、ガラス加工に取り組み始めます。「ガラス工芸なんて呼べないレベルでしたがね。でも遊びながら、ガラスという素材の特性を学ぶことができました」。卒業後は、牛乳瓶などを溶かした再生ガラスで工芸品を製造する札幌の会社に7年半勤めました。将来ガラス工芸作家として独り立ちするための修行です。1986年には旭山動物園のふもとで、自身の工房を構えました。4年後に現在の旭岡に工房を移転、2002年には工房の隣にギャラリーも開設しました。
無垢材を切り分けた木の土台と、ガラスのぐい飲みを組み合わせた酒器セット「木Glass(きぐらす)」。地元の木彫やクラフト界を盛り上げるための企画として考案したこのシリーズは、淳工房を代表する人気商品のひとつです。飲み物を注ぐと、氷の中に溶け込んでいくように見えるヒビ模様の演出は、菅井さん自身がお酒好きということも発想の原点にあるのかもしれません。同シリーズは海外でも高く評価され、料飲店の業務用にまとめて注文が入ることもあります。
菅井さんは自身のことを「芸術家か工芸作家か」という線引きをしたことはありません。ましてや「ガラス」という素材の魅力を知ってほしいわけでもないと語ります。「光が好きで、それで感動を生むために、ガラスを利用しているという感じかな」と説明します。「だから僕はいつもみんなに言うんです。感動できる心を持っている人は、みんなアーチストだってね」。一つの作品がイメージ通りに完成したとき、菅井さんはいまも感動する心を持ち続けています。