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- ⓒ2022「グッバイ・クルエル・ワールド」製作委員会
社会問題とリアリティのない世界観を混ぜ合わせて描かれるどこにも救いのない世界。冒頭から無害っぽい若者が明らかに危なそうな人たちのところへ金を運んでいる。最近よく問題になる特殊詐欺のようななにかであろう。本作はそのどう見ても闇の金を別の悪党どもが強奪するところから始まる。巨額の強盗事件だが奪われた金がそもそも別の犯罪によって集められたもので、言わば加害者も被害者も悪党である。作中に一人だけ警察官が出てくるが、この警察官は暴力団に買収されており、特定の組織のために動いている。雑に言えば悪人同士が裏社会で争う物語なのだが、足を洗いたいのに社会復帰が阻まれ、再び裏社会に堕ちざるを得ない人物も描かれている。これも近年表面化してきた問題の一つと言える。
本作はかように社会問題も描かれてはいるのだが、過剰なバイオレンスがポップな音楽に乗って次々に上塗りされ、どんどん現実から乖離することで重さが失われていく。ちょっと同情しにくい人物が次々にカジュアルな死を遂げ、それを軽く受け止めてしまう自分を嫌悪する。
徹底して描かれる極彩色で救いのない世界。僕らの世界はこの世界よりも幾分ましなのだろうか。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
一見した印象はユーモアの乏しい『パルプ・フィクション』というものだった。やたら人の命に価値のない世界で過剰なバイオレンスが満載。悪人同士が殺し合い、後には大量の死体が残る。そういう映画だ。この世界観だけでも『パルプ・フィクション』的になりがちなところへ、ポップな音楽やビビッドな色使い、ポスターのデザインに至るまでパロディかと思うほどタランティーノ的である。タランティーノと違う方向に尖っていれば面白いのかもしれないが、ユーモアがない分やはり見劣りしてしまい、劣化『パルプ・フィクション』みたいに見えてしまうのが惜しい。
描かれている要素は特殊詐欺や暴力団員の社会復帰問題(『すばらしき世界』でも直接的に描かれていた)など、現代の社会問題を含んでいてテーマ性はある。しかしそのテーマを描くには演出が軽く、悪党の命が軽すぎるのである。作中にはいくつもの犯罪が描かれるが、基本的に加害者も被害者もなんらかの「悪」であり、ひどい目にあっている人物にもあまり同情できない。もちろん「殺されても自業自得」とまでは言わないが、それに近い感覚で受け取ってしまう。
人の命が軽すぎることも非現実感の一因だろうが、やはり大きいのは銃撃戦であろう。銃撃戦アクションを日本を舞台にして行うとどうしてもリアリティに欠けたものになりがちだ。ただ、本作中盤の虐殺シーンで用いられるショットガンは、似たものがごく最近実際に使われて話題になったため、映画の非現実感に現実が追い付いてしまった感もある。
普段住んでいる世界とかけ離れた世界の話のようでありながら、僕らの世界もこの映画の世界に引けを取らないぐらい希望がないような気もする。映画のコピーに「最後に笑うのは誰だ」というのがあったが、ラストシーンで笑っていた人物はなんらかの救いを得ることができたのだろうか。
余談になるが、公式サイトを眺めていたらラストシーンの写真も載っていた。「最後に笑うのは誰だ」と書かれたすぐ上に、最後に笑っているシーンが流れている。最近のこういう公式サイトのデリカシーのなさにも呆れるのだが、これもまた時代なのかもしれない。