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- ⓒ2022“犬も食わねどチャーリーは笑う”FILM PARTNERS
犬も食わぬと言えば夫婦喧嘩。タイトルを見ると本作は夫婦喧嘩の話なのかと思うが実はそうでもない。夫婦の間の問題を描いてはいるもののそれは喧嘩ではなく、むしろ喧嘩できる関係性になっていないことによって生じるあれこれがここには描かれている。
劇中には「旦那デスノート」と呼ばれるある種のSNSが登場する。夫に不満を持つ妻たちがその不満を書いて共感を呼び、なんらかの発散と満足を得る。主人公は夫婦仲に何一つ問題など起きていないと信じている男で、その妻がこの「旦那デスノート」で人気の投稿者の一人だった、というところから話が始まる。芸達者揃いのキャスティングでコメディ的に楽しく始まるのだが、どの人物もリアルに、ていねいに描かれているので感情移入しやすく、すぐに笑いよりもハラハラさせられたりもどかしくなったりしてくる。
劇中で主人公が行う後輩の結婚式でのスピーチや主人公の同僚で年上の女性が語る夫婦とは何かという話など、心にメモしておきたいような言葉もたくさん出てくる。この作品はぜひ夫婦やこれから夫婦になろうとしている人に見てもらいたい。そして大いに犬も食わない夫婦喧嘩をできるような夫婦になろう。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
劇中に登場する「旦那デスノート」というサービスが重要なカギになっている。もちろんこれが事の発端であるしストーリー上重要なのは言うまでもないのだが、このサイトをきっかけにして夫婦間の問題が浮上してきたということは、裏を返せばこのようなサイトを介さないと妻の不満に夫は気づけなかったということであり、これは気付けなかった夫に問題があるというシンプルな話ではなく、そもそも互いの不満をぶちまけてぶつけ、喧嘩ができるような関係になっていなかったということだ。本作は主人公夫婦がいくつかのエピソードを危なっかしい足取りで超えながら、最終的に事の本質に気付き、再び手を取り合って歩き出す、という話である。一言で言えば「雨降って地固まる」という状況を描いている。中心に描かれているのは主人公夫婦なのだが、周辺に何組かの夫婦を感じさせるような配置になっている。もちろん一つとして似たようなケースはなく、それぞれの夫婦がそれぞれの問題を抱えていて、それぞれの方法でその問題と向き合っている。それが極めてあっさりと感じさせるような見せ方になっていて、それでいてしっかり主人公夫婦に影響を及ぼしていく。実にうまいバランスで描かれていると感じた。
終盤、クライマックスは少々行き過ぎた演出になっていて急にリアリティが失われるのだが、人物造形のリアリティが非常に高いためこの作品は多くの人に響くだろう。特に既に夫婦関係を築いている既婚者諸氏は、身につまされるエピソードがあったり、我が身を改めようと思ったりするかもしれない。
最後にひと言、チャーリーははたして笑っているのだろうか。犬も食わぬ二人の様をチャーリーはいつもただ「見て」いるように見える。タイトルでは「笑う」となっているがあれは笑っているのではなく、きっとただ「見て」いるのだ。夫婦というシステムに縛られておかしなことになる二人を。