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アクション映画にはつきもののスリリングなシーン。人間離れした運動能力を見せるキャラクタ、窮地を無双で切り抜ける圧倒的な強さ、そこらじゅう大爆発。そういう派手なシーンが全編にわたって満載されている。しかもその全編というのが実に3時間を超えるのだ。大変なことになっている。
ただ、派手なアクションを堪能できるインド映画ではあるものの、いわゆるインド映画的な底抜けの高揚という感じではない。ダンスや歌のシーンはあるけれど脈絡なく突然挟まるような感じではなく、あくまでシリアスなストーリーの中に配置されている。大仰なアクションシーンも爽快さはあれど、底に流れる人々の想いは平和の遠さを感じさせる。
扱っている題材は植民地時代のインドの人々の反抗であり、全体として「非道な英国人を打倒する」という「大義」が描かれる。虐げられた状況で怒りを燃やし、形勢を逆転していくカタルシスはあるが、その相手が具体的に「英国」であり、歴史の話だというのが重い。エンターテイメントの皮をかぶっているが、この映画には英国の悪行を忘れはしないというインドの人々の根深い怒りが満ちているのを感じる。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
似たような目的のためにまったく逆方向から動いている二人が出会う。一方は英国人にさらわれた少女を救うために行動する部族の戦士。もう一方は植民支配している英国を追放すべく、あえて英国警察に潜入して機をうかがっているこちらも別の部族の戦士。警察の戦士はもう一方の戦士を捉えるという命令を受けて行動しているが、ターゲットと知らないまま二人は出会い、親友になってしまう。親友となった男が自分のターゲットであり、自らの大義のためには彼を捕えねばならない。二人とも打倒英国を掲げながら敵同士となってしまう。
熱い友情と葛藤、戦いの物語。少年ジャンプ的な熱さを濃縮したエンターテイメント映画なのだが、実際の歴史が題材であり、今も実在する英国が敵であるという点にこの作品の重さがある。植民地支配によって虐げられた現地の人々。そこに立ち上がる英雄たち。冷戦終了後、アメリカ映画が仮想敵を具体的な国ではなく宇宙からやってくる脅威として描いたり、内部告発的にアメリカの悪を描いたりしている中、明確に歴史上の敵を敵として描いてくるインド映画には今なお拭えない深い怒りが感じられる。劇中に登場する非道の限りを尽くす英国人に見ている私も怒りを感じ、主人公たちが襲い来る英国兵を次々に殺していく姿にカタルシスを覚える。が、倒される英国兵の大部分は非道な人間ではなくただの一兵卒。祖国に待つ人もあるだろう普通の人である。ここにいまいちあっけらかんと楽しめない原因がある。最終的にはもちろん非道の限りを尽くした英国の高官とその極悪な妻がひどい死に方をする。正直、スカッとする。人の皮をかぶった悪魔のような連中に正義の鉄槌を振り下ろした。カタルシスだ。でも直後に、これにカタルシスを感じる自分を嫌悪する。
ラスト、英雄は仲間のもとへ、大量の武器を届ける。銃を手に勝鬨を上げる人々。新たな戦の幕開けだ。
描かれているのは歴史の一幕であり、これがそのまま史実ではないものの、非道な植民地支配を受けたという事実は紛れもなくある。その怒りの火種は民衆の中に今もあり、こうしてこの映画はくすぶっている想いに火をつける。これはあくまでエンターテイメント映画ではあろうが、十二分に、プロパガンダとして機能するような気がする。