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- ⓒ2022「すずめの戸締まり」製作委員会
日常のすぐそばにある異界。近くて遠い世界。リアルな現実から一足飛びに神話の世界に飛び込む。新海監督の真骨頂とも言えるその世界観が、「扉」というモチーフを用いて見事に描き出される。内と外、こちらとあちらを隔て、かつ行き来するための装置である扉。人が住まなくなった場所にある扉は通る者を失い、意味を喪失する。本作はそこに日本古来の神道からのモチーフを引きつつ、特定の神話に寄りすぎない距離感で神秘的な世界を見せる。身近な自然現象を超常的な力と結びつける世界観も新海監督ならではで、テーマ性、ストーリーテリングともにここ数作と同じ系譜にある作品だと感じた。
散りばめられたモチーフには奥行きがあり、深読みする楽しみもある作品だが、近作と同様、この作品も登場人物がひとりひとり魅力的なのでただストーリーを追うだけでも十二分に楽しめる。さらに全体がロードムービーになっているため、距離と時間を共有しながら出会い、別れ、そして再会するというドラマも満載だ。
予告編で印象的に響いた「いってきます」という言葉が、作品を見終えると複雑な想いとともに残る。とても楽しい映画だが、それだけではない深さがある。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
ネタバレせずになにかを書くのが非常に難しい作品であった。そのため本紙の方には書けなかったことをここで書こうと思う。
本作も「君の名は」からの流れをくむ最近の新海作品的な展開を持つ作品で、物語は中盤で一度決着が付き、それで納得しない主人公が終盤の展開をもたらす。一度終わったような形で着地してそこからあれこれひっくり返すというのは前作「天気の子」も含め、共通しているように感じる。また、「天気の子」ではゲリラ豪雨を神秘的世界に起因するものとしていたけれど、本作では「地震」がそういうものとして描かれる。このような、身近な自然現象を神々の世界によるものとする新海作品は現代の神話と言えるかもしれない。そういう神話的設定が敷かれているが、作品世界はあくまで現代の日本に軸足を置き、主人公たちだけが半分ファンタジー世界に踏み込んだ状態にある。
現在という時間軸でティーンエイジャーの主人公を描くためか、幼少期に東日本大震災で被災し、重い事態を抱えてしまった人物として描く作品がここ数年たくさん出てきている気がする。10年が経過してそろそろフィクションに描きやすくなってきたという事なのかもしれないが、近年少々目立っている。本作も主人公に関する情報が伏せられた状態から始まり、本人も重要な要素を忘れている、という設定で、それが震災に起因している。雑に要約すれば、この作品は震災でトラウマを抱えた少女が十二年ぶりに実家の跡地へ戻り、そのトラウマを克服する話とも言える。彼女が被災者であることは終盤まで断定的には描かれないが、冒頭からあからさまに見せられてはいる。九州を舞台にして物語が始まるのだが、主人公は明らかに東北の被災地の記憶を抱えている。本作はそんな主人公が行きがかり上どんどん北上し、自分の生まれ育った被災地まで旅をしていくというロードムービーなのだ。
目立つ形で意味深に挿入される懐メロの数々やキャラクタの名前等、深読み要素も随所にちりばめられている。何度も見て毎回違った発見があるような、そういう映画と言えそうだ。