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実話をもとにした「お父さんは犯罪者」な物語。クライマックスシーンから始まり、そこへ至る経緯を回想で見せるというスタイル。お父さんは夢見がちなほら吹きで、どこか憎めないのだけれどはっきり言ってどうしようもない男。でもその娘である主人公はこのお父さんを見捨てられない。なんだかんだ、慕っている。おかげで何度もひどい目にあう。お父さんのほうも、「人は変われるということを見せる」とか言いつつ何一つ変わらず、むしろより酷いほうに転落していく。これがフィクションだったら、こんな人物はちょっと説得力がない。改心できそうなタイミングが何度も訪れるのにことごとくダメで、収監されて出てきてさえさらに酷いところへ転落する。フィクションでも無理がありそうなダメおやじが登場し、最後まで彼を見捨てられない娘が突き放しながらも寄り添っていく。共感できる人物が出てこないため物語をどこか外から眺めているような印象を受ける。事実が小説よりも奇すぎて呆気にとられるのだ。少々父親側に都合の良い脚色がされている気配もある。
見終えて、登場するのにほとんど詳しく描かれない主人公の弟のことが気になる。彼はどう感じているのだろう。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
ろくでもないお父さんとその娘の話なのだが、実話をもとにした話であるという点と、この父親役を演じるショーン・ペンが企画している点、娘の役をショーン・ペンの娘であるディラン・ペンが演じている点など、付帯情報を知れば知るほど作品に入れなくなる。
歴史的偽札事件の犯人だった父親。作中では警察に追われる中で自害してしまう。冒頭のシーンはこのカーチェイスを描いており、決定的なシーンは描かれないものの、この捕り物の際に父親は死んだであろうことがうかがえるようなプロローグになっている。本編はそこから回想になり、この父と娘のほか、母親と弟という家族が描かれる。
この父親は正直に言ってろくでなしだ。どこか憎めない部分があるし、だからこそ娘はこの父親を慕い続けるわけだが、その部分は大いに脚色されている可能性がある。事実をもとにした作品であって、事実そのものを描くドキュメンタリーではないからだ。父親はろくでもないし、何度も酷い状況になりながら全く反省がなく、いつまで経っても改心しない。何度か繰り返されるうち、見ている我々は「もう救いがないな」と思う。しかし娘はやはりそう簡単に見限らない。その割に母親のことはすぐに決別してさっさと放り出したりしているのだが、父親のことは最後まであきらめない。
途中、弟も母親に愛想を尽かし、姉弟二人で父の元へと出ていくシーンがある。その後当の父親自身によって子どもたちは母親の元へと戻されるのだが、娘のほうはその後さらにまた父の元へ行く。このとき、弟は母親の元に残り、その後ずっと母親に寄り添っている。この作品は父と娘にフォーカスしすぎていて、弟や母親についてあまり詳しく描かれない。そのため、この状況で弟は何を考えているのか、ということが非常に気になる。父娘の話はどうも父親側に都合の良い話になっていて、その父親を演じているショーン・ペンが自ら企画し、脚本も書いて、自分の娘と一緒に演じているという事情が重なると急に彼の自己満足的要素が大きいのではないかと邪推されていまいち物語に入り込めない。
実話をもとにした話にありがちなことでもあるのだが、どの人物も極端な現実であるがゆえにかえってリアリティが薄く、感情移入しづらいという要素もある。一貫して、展開される物語を一歩引いたところから眺めているような感覚になる映画である。