昭和喫茶探訪 22
50年の足跡と、その先
ティータイムから繋がる景色
珈琲の店 LIFE
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訳もなく大人に憧れていた20歳の頃。飲めないブラックコーヒーを無理やり流し込み、バイト終わりにあてもなく車を走らせていた。大人になりたい、でも将来は見えない。当時はまだ300円台だった煙草に火をつける。車内がゆっくりと、白く曇ってゆく。実体は見えないが確かにそこにあるもやもや感と、正面から向き合うのが嫌だった。
あれから12年が経ち、あの時は想像もしていなかった自分が、いまここにいる。スコーンに生クリームを塗り、口の中に広がる上品な甘さを、深みのあるブラックコーヒーとともに味わう。助手席に乗ってバカな話しをしていた友人と向かい合って座り、お互いの子供の将来の話しをしている。もちろん、いいことばかりではない。でも、仕事も生活も、あの日の深夜の12号線から続いているとは思えないほど上出来だ。
1973年創業のこちらのお店は、今年で50年の節目を迎える。自分の歴史と比べるものでもないが、干支4周以上にもなる半世紀の重みは想像に難くない。今では当たり前のように感じる自家焙煎豆の販売も、当時は珍しかったそう。豆を買って自宅で淹れるスタイルは、長く販売を続けることで徐々に定着していったそうだ。
今日日、煙草は嗜好品としての輝きを失いつつあるが、この店のコーヒーは多くの人の生活の中で、なくてはならないものになった。長い歳月をかけて生活に溶け込み、じっくりと浸透していくことで、新たな文化になる。コーヒーや紅茶という嗜好品は、生活必需品とは違ってなくてもいいもの。でも、ないとなんだか毎日が少し寂しい。もうすぐ2年を迎えるこの連載も、誰かにとってそんな存在になっていたらいいなあ。今日の帰り道が、どんな景色に繋がるのか楽しみだ。(文/武山 勝哉)
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住所:旭川市東光19条7丁目2-5TEL:0166-32-8623/定休日:木曜/駐車場:あり
東光/カフェ・喫茶, 洋菓子
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