昭和喫茶探訪
スイートでビターな毎日
それでも時計は回り続ける
珈琲古伊万里
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暑くて寒い、5月の終わり。春らしいといえばそれまでだが、なにはなくとも浮足立ってしまうような、心地よい春らしさが恋しい。毎度のことながら、原稿の締切はとうに過ぎ、もうすぐ6月。時間の流れが早くなったのか、それとも自分の身体が重くなっているのか。まあ、仕方ないと言い聞かせながら、一足早く初夏の涼を味わうことにした。
コーヒーゼリーは、子供の頃から好きだった。3個パックのひとつを開けて、付属のミルクをかけて食べる。真っ白なミルクが、甘そうに見えて甘くない。まろやかさの奥に感じるほのかな苦みが、ちょっとだけオトナな気分にしてくれた。こちらは、珈琲ゼリーパフェ(800円)。ミルクの代わりに、たっぷりのソフトクリームが乗っている。子供にはわからない、大人にだけ許された贅沢だ。濃厚でしっかりとした甘さを堪能していると、自家製ゼリーのコクのある苦みが顔を出す。うん、これが大人か、とふと思う。当たり前のことだが、いつも甘いことばかりではないのが日常。ときに苦い思いをしながら、その苦みさえも味わい、前のめりで楽しめるような余裕を持っていたい。添えられたいちごのような甘酸っぱさは、もう感じることはないか。食べ進めるほどに、ソフトクリームが溶けてゼリーと混ざり合う。そこに境目はなくなり、グラスの中には白と黒のマーブル模様が広がる。ここからが、本当においしいところ。グラスを傾けながら、最後の一口まで楽しんだ。
夕方5時の鐘が鳴る。昭和63年創業の同店よりも古い、80年以上もの時を刻み続ける大きな古時計の音だ。お店も時計も、あの頃と同じ姿でお客さんを出迎える。変わらずにいてくれる拠りどころのような姿に、理想の大人像を見た気がした。(文/武山 勝哉)
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住所:旭川市豊岡3条3丁目6-14TEL:0166-33-2217/定休日:日曜・月曜
豊岡/カフェ・喫茶, パン
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