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- ⓒ2023映画「大名倒産」製作委員会
江戸時代を舞台に、巨額の借金を抱えて取り潰し目前となった藩を救うべく立ち上がる若きお殿様のお話。江戸時代の話なのでもちろん時代劇なのだが、現代的に脚色してあり、言葉遣いなども現代風でコメディタッチになっている。扱っている題材も相まって現代に置き換えると似たような状況が思い当たる。国そのものが借金まみれだし、巨大イベントの実施に絡んで行われた癒着、談合、ピンハネ問題も記憶に新しい。
この作品では寝耳に水的に殿様をやらされることになった主人公が、財政難の原因を探り、裏で暗躍して私腹を肥やす「悪」に迫っていく様を描いている。話の構造はシンプルだし、主人公の強さもわかりやすい。諦めない心と仲間ファーストの意識が周囲の人物を次々に味方にし、どう見ても負けが確定しているような勝負の状況を改善していく。
楽しいとは何か。幸せとは何か。経済という社会に必要なシステムに翻弄されて見失いがちな本質の部分を、この映画は時代劇コメディという形で描いている。いずれ劣らぬ名優たちによる癖の強いキャラクタたちが強烈に印象に残る。エンドロールもひたすら楽しい映像になっているので最後までお見逃しなきよう。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
時代劇「風」のコメディ作品なのだが、時代劇的な部分とそうでない部分のバランスが絶妙でとても良い。特に感じるのは、本気の時代劇を本気でできる役者をそろえてこれをやっていることの意味である。俳優陣はみな発声がしっかりしているため、現代的なセリフを話していても声は時代劇的である。若い世代でこういう芝居をできる人というのをちゃんと育てていかないと今にまともな時代劇は作れなくなってしまうのではないかという危惧もある。コメディで面白おかしく描いてあり、ふざけているシーンも多いのだが芝居は常に「ガチ」であり、熟年の技が各所に光っている。年配の俳優のほうがよく通る声をしていたりして、時代劇における「声」の重要性を改めて感じるとともに、やはりこの技を若い人達に継承していってほしいと改めて思った。
物語はシンプルで、ある日突然殿様にさせられた主人公が、周囲の人を巻き込みながら巨悪に立ち向かっていくという話である。権力者が私服を肥やすために公的事業を癒着業者に委託して中抜きする、というどこぞのオリンピックと同じようなお話。時代劇でありながら描かれているのはつい数年前の日本で実際に起きたのとそっくりな話なのだ。ネタばれ的な話を入れるとすると、主人公の実の父である先代の藩主、これが敵なのか味方なのか、それが重要なポイントだ。彼が物語のキーマンであり、主人公はとどのつまり、この先代藩主を味方につけられなければ詰む、という状況で立ち回ることになる。
一見不可能な無理難題に直面したまっすぐな主人公は、自分の掲げた理想を諦めずに直進していく。彼のまっすぐさ、実直さが周囲を動かして大きな成果につながっていく。この映画を見終えると「現実はそう甘くもない」という冷ややかな想いと、でも「このようなまっすぐさが状況を打開するような希望もあってほしい」という願いみたなものが交錯する。なにより、少しずつ姿を変えたとしても時代劇というものがちゃんと継承されていってほしいと思った。