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- ⓒ臼井儀人/しん次元クレヨンしんちゃん製作委員会
しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜
しん次元だそうで、3DCGによって描かれる初めてのクレヨンしんちゃん映画である。タイトルのつけ方もこれまでのしんちゃん映画とは異なり、この作品がいろいろと新しい試みであることがうかがえる。
しんちゃんの映画と言えば「泣ける」ことで有名だが、本作もその期待を裏切らない。少々マニアックなギャグも織り交ぜながらではあるものの、子どもたちも笑って楽しめる作品だ。いつものようにしんちゃんはお下品でハチャメチャな園児なのだけれど、彼はとても素直で心根が優しい。寂しそうにしている人を放っておかないし、あんな感じでありながらいつだって仲間ファースト。自分のことは二の次で仲間のために行動する。
今回、描かれているテーマは重く、深刻なものだ。子ども向けの作品なのでだいぶ簡素に描かれているため、実際そう簡単ではあるまいと思うような部分もある。でも一方で、しんちゃんのような子が大勢いたら、救われる人は多いのかもしれない。差し伸べられた手に蔑みしか感じないような人をどうやって救えばいいのか。楽しさとはなにか。幸せとはなにか。そして優しさとはなにか。しんちゃんの映画はいつもとても大事なことを教えてくれる。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
空から降ってきた謎の光によって、悪の超能力者と正義の超能力者が生まれる、というお話。正義の方は我らがしんちゃんで、悪の方は本作の悪役。この悪役を松坂桃李が演じている。彼は不遇な環境に育ち、いじめを受け、世の中を呪っている。そこに付け込んだ悪の力に染まってしまい、巨大な悪と化してしまう。決して悪い人ではなかったのだが、様々な状況、思い切って言ってしまえば「社会」が彼をモンスターにした。空から降ってきた光で超能力を得る、というのは本作ならではのフィクションで荒唐無稽な話なのだが、彼のように本来善良な人があまりにひどい状況を生きてきたせいでモンスター化するというのは現実にもよくある。罪を憎んで人を憎まずというのがどういう意味なのか、改めて考えさせられる。
本作はクレヨンしんちゃんであり、お下品なギャグを散りばめながら嵐を呼ぶ園児がその名の通り嵐を呼ぶ話になっているのだが、描かれているテーマがかように重い。本作において軸になっているのはむしろこの悪役の方なのである。
悪役の青年は超能力を得てテロリストと化し、そこからエスカレートして文字通りのモンスターになってしまう。世界を滅ぼすモンスターと化したこの青年を、しんちゃんが救う。しんちゃんは世界を救うわけだが、モンスターをやっつけて世界を救うのではなく、モンスター化してしまった青年の心を救うことでモンスターをやっつけるのである。この青年の少年時代にたった一人、しんちゃんのような友人がいたら。きっと彼はモンスターにならずに済んだのだ。そして、彼のような人はきっと現実に大勢いる。絶望は人を狂わせる。善良な人を自暴自棄にさせ、悪魔に変えてしまうことさえある。小さな希望一つで救えるものはたくさんある。ただ、その小さな希望をもたらすことが、思いのほか難しい。