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- ⓒ2023「BAD LANDS」製作委員会
次々に新たな手口が登場する組織的な特殊詐欺。本作はその組織に加担する主人公を軸に社会の暗部を描く作品である。裏社会というものがあるとすれば、この作品に描かれているのは表と裏のちょうど境界ぐらいの世界と言えよう。
冒頭、主人公たちの組織が組織的に詐欺を実行するシーンが異様な臨場感で描かれる。ある意味、この冒頭はクライマックスよりもはるかにスリリングである。主人公を始め、その周辺の人物の詳細は物語の進行とともに少しずつ明らかになっていく。犯罪に加担する人物を描いているが単なる裏社会エンタメではなく、現代社会の抱える格差や高齢化の問題、警察と政治の癒着などをもえぐり出していく。
この物語はもちろんフィクションではあるのだが、作中に描かれる日本の社会に渦巻いている種々の問題は現実そのものである。これを見てあなたの胸にはどんな感情が去来するだろうか。ここに描かれた物語を「正義」の視点で断罪するとして、あなたの胸に去来した想いはその「正義」の側にあるだろうか。
この作品のラストシーンを見て何を思うのか。おそらく人によって異なるであろうそれを確かめに、ぜひ映画館へ足を運んでほしい。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
ちょうど前週に『ジョン・ウィック』の新作が公開されたのだが、奇しくもあれと同じく、この作品に描かれているのもコンセクエンス、すなわち「報い」であった。
主人公がなぜ特殊詐欺の組織に加担しているのかはある程度物語が進行すると明らかになる。彼女の悲惨な過去は視聴者の共感を誘う。彼女の人となりが明らかになるにつれ、犯罪者であるはずの彼女は共感できる主人公になっていく。
この作品には末端で犯罪の片棒を担いでいる犯罪者とは桁違いの「悪」が何人も登場する。本当の「悪」は法の目をかいくぐり、平然と私腹を肥やしている。けしからん!腹立たしい!報いを受けさせたい!
そして主人公たちはその腹立たしい悪魔のような人物を殺す。詐欺に加担していたはずの主人公は殺人犯となる。主人公をひどい目にあわせた悪人たちが殺されていくのを見ながら「因果応報だ」と感じないだろうか。因果応報かもしれないがだからといって殺人を肯定するわけにはいかない。いかないのだが生かしておけばさらに被害が拡大する。それを止めたのだから良いという見方はないだろうか。
終盤、主人公は金を手に入れて国外への逃亡を試みる。このとき、彼女にうまく逃げ延びてほしいと思いはしないだろうか。主人公を脅かす大富豪のサディストが亡き者になったとき、「やった!」と思いはしないだろうか。