今年もやってきました年末。今年は仮面ライダーやゴジラの、原点回帰のような作品が印象に残ったので、いろんな映画の中に込められた別の映画へのリスペクト、オマージュシーンを楽しんでみようと思う。映画を作っているのはだいたい映画が好きな人たちで、過去の作品を思わせるシーンをチラっと自分の作品に入れ込んだりすることがよくある。今回はそういうオマージュが込められたシーンを紹介してみるので、ぜひこの年末に見る映画の参考にしてほしい。(映画ライター・ケン坊)
オマージュといえば
レディ・プレイヤー1
この作品はさまざまな映画、ゲーム、アニメなどへのリスペクトが散りばめられている。もはやどのシーンがどれとか説明できるようなレベルになく、「あなたはいくつ見つけられるか」みたいな領域だ。特に序盤のレースのシーンとクライマックスのバトルシーンでは、どこかで見たようなものが大量に登場する。デロリアンとAKIRAのバイクがレースしたり、メカゴジラとガンダムが戦ったりする。たくさんのコンテンツを知っていればいるほど楽しめる作品と言える。
オマージュシーンと言えば有名なのがタランティーノ。タランティーノ作品にはほか作品のオマージュがたくさん含まれているし、タランティーノ作品もまた、別の作品によく引用されている。
キル・ビル
この作品はもうキービジュアルからしてどう見てもブルース・リーだ。ここまで思い切り持ち込まれるとある種のパロディのようでさえある。『キル・ビル』にもいろいろな映画の影響が見られるが、日本の『SF サムライ・フィクション』という映画の殺陣シーンとそっくりの演出がされているシーンがある。オマージュというか、もはや同じと言っていいようなレベルだ。タランティーノ監督は他作品のかっこいい要素を取り出してきて使うのが非常にうまい。コラージュからオリジナリティを生み出す稀有な存在だと思う。
パルプ・フィクション
これも同じタランティーノ監督の作品。この作品で有名なのはジョン・トラヴォルタとユマ・サーマンによるダンスのシーンだが、あれは同じトラヴォルタの代表作でもある『サタデー・ナイト・フィーバー』を思わせるし、フェリーニの『8 1/2』のダンスシーンにそっくりである。さらにこの『パルプ・フィクション』という映画も多くのシーンが他の映画に模倣されている。オマージュシーンを語る上で外せないのがタランティーノと言えよう。この作品にはヒッチコックの『サイコ』のシーンをエスカレートさせたようなシーンも登場する。
キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー
『パルプ・フィクション』と言えば意外なところでこんな作品ともつながりがある。この作品にはニック・フューリーというキャラクタの墓が登場するのだが、その墓石に刻まれている文言は、ニック・フューリーを演じているサミュエル・L・ジャクソンが『パルプ・フィクション』で演じていた人物のセリフと関係があるのである。まるで違う世界観の作品で、まったく関連のない話なのだが、同じ俳優が演じているというつながりでこういう要素を入れてくる作品もあるのだ。
オマージュのつながりも楽しい
キングスマン
この作品は一見してわかるように、かなり007シリーズの影響を受けている。007の直接のオマージュも満載されているし、キューブリック監督の『博士の異常な愛情』の有名な会議のシーンや、同じくキューブリック監督の『シャイニング』のキービジュアルで有名な、斧でドアを破壊するシーンなどを思い出させるシーンがある。有名な作品の有名なシーンを入れているのはもちろん、「あれだ!」とわかってもらいたいからであろう。『キングスマン』シリーズにはこういう遊び心がたくさん詰め込まれているので、ぜひ細かいところに注目しながら見直してみてほしい。
パッセンジャー
こちらは『シャイニング』とは全く違うジャンルの作品なのだが、作中に登場するバーのシーンはかなり『シャイニング』のホテルのバーを思わせる。バーテンダーの服装やライティング、バーカウンターの印象などが似ているので意識して近づけているのだろう。映画の内容こそ全く違うものの、閉ざされた環境でごく限られた人物だけがいるという状況は似ている。わたしは劇場でこの作品を見たとき、「どこかで見たバーだ」と思ったものの、すぐに『シャイニング』とは思い出せなかった。
『キングスマン』に影響を与えた007はとても長いシリーズなので、007自体が過去の007作品へのオマージュを込めてくることもある。
007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
これは現時点での007最新作にして、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる最後の作品と言われている。この作品には過去の007シリーズとのつながりやオマージュシーンがたくさん散りばめられている。シリーズの長年のファンがニヤリとするような要素を詰め込んであるので、シリーズの過去作をたくさん知っていればいるほど楽しめるようになっている。なお、ダニエル・クレイグになってからの007についてはオマージュではなくストーリーがつながっているので事前に見ておいた方が良い。
名シーン満載の作品を入門に
ラ・ラ・ランド
この作品は過去の名作と言われるミュージカル映画の名シーンをたくさん詰め込んである。楽曲も素晴らしいしストーリーもわかりやすいのでミュージカル映画をぜんぜん見たことがないという人にもお勧めできる。これを入り口にして、『雨に唄えば』、『ウェストサイドストーリー』『ムーラン・ルージュ』などのミュージカルに入っていくと、「あぁあのシーンはこれだったのか」と思う場面が登場するだろう。
金字塔にもオマージュが
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破
エヴァンゲリオンと言えばウルトラマンの影響を受けているというのは有名な話なのだが、新劇場版の破にはかなり直接的な表現がされている。まず製作会社カラーのロゴに音が付いたのだが、この音がウルトラマンの変身するときの音である。さらに、作中に登場するネルフの車がマツダのコスモスポーツで、この車は『帰ってきたウルトラマン』にマット・ビハイクルとして登場したものである。他にも空を飛ぶ船の上に模型を吊る糸のような演出がされているのもウルトラマンへのオマージュであろう。
日本アニメの影響力
マトリックス
この作品は思い切り『攻殻機動隊』の影響を受けている。オープニングタイトルがとても似たアイデアで作られているし、登場人物がマトリックスに入る際に首の後ろをインタフェースとして使うのも似ている。クライマックスの銃撃戦シーンではコンクリートに刻まれる弾痕やばらまかれる薬きょうにその影響が見られる。余談だが『マトリックス』に影響を与えた『攻殻機動隊』の回し蹴りのシーンは、ゲームの『バーチャ・ファイター』の影響を受けて描かれたものだったりする。
インセプション
全体的にアニメっぽい演出がされているこの作品だが、ホテルの部屋を使った攻防のシーンは日本のアニメ映画『パプリカ』の影響が感じられる。思えば『パプリカ』も夢の中に入っていく話であり、アイデアそのものも影響を与えているのかもしれない。アニメだからという要因はもちろんあるだろうが、『パプリカ』の映像が持つイマジネーションは大変なことになっていて、世界の多くのクリエイターが影響を受けていると思う。
このように映画はそれまでに公開された他の作品の影響を受けて作られており、作り手はそのリスペクトを自分の作品の中に込めることがよくある。そんな作り手たちの想いや遊び心を作品の中に見つけていくのも映画の楽しみ方の一つになる。ぜひ気になったものをセットで見てみて、オマージュシーンを楽しんでください。