- ©2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会
これまでに幾度となく映像化されてきてもはや誰もが知っていると言っても過言ではない忠臣蔵。それを誰も見たことがないドタバタコメディにしたのが本作である。奇想天外な発想によるブットビなストーリーだが、驚くべきことにちゃんと史実に合うよう脚色されている。つまり、ありそうもない話でありながらあり得なくはない形で描かれているのである。
忠臣蔵をコメディにするという発想がすでにだいぶ面白いわけだが、主演のムロツヨシを始め、キャストが見事で底抜けに笑える。さらに、ただ笑うだけでなく、本来の忠臣蔵とは違う形で「人」を描いていて、忠義とは別の心のやりとりを丁寧に見せている。また、忠臣蔵の背景の描き方もよく、現在の社会が抱える格差や経済的閉塞感、ある種の組織論のようなテーマまでカバーしており、ばかばかしさと感動のバランスも相まって実に「良い映画」になっている。
本来の忠臣蔵を知らなくても理解できるようになっているし、笑いの要素も難しくなく、子どもでも大いに笑って楽しめる。ギャグ部分はむしろ子ども向けと言えるような下品さもあり、時代劇でありながら子ども連れで楽しめる稀有な作品である。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
忠臣蔵は多くの場合、赤穂浪士の復讐劇として描かれる。本作は逆に吉良側に主人公を立てているわけだが、上野介ではなく、その弟で出家していたとされる孝証を主人公にし、松の廊下の刃傷沙汰が原因で上野介は死んでしまい、その事実を隠すために孝証が替え玉になっていた、という奇想天外な設定で話が進む。上野介にはほかにも兄弟がいたのだが、本作ではその兄弟たちにはまったく触れず、あたかも上野介と孝証の二人兄弟であったかのように描かれている。この孝証を魅力的な人物として描き、よく知られた忠臣蔵をまったく違う側面から描くことに成功している。上野介が孝証に代わったことで家臣への接し方、扱いなどが変化し、士気や忠誠心の向上につながるといった描写は現代的な組織論と見ることもできる。
この作品は忠臣蔵という伝統的な物語をベースに現代的な問題提起を込めてドタバタコメディ化したようなもので、そのバランス感覚に唸らされる。作品の魅力の大部分が俳優の魅力であるとも言えるが、それもこれもこの絶妙なバランス感覚あってのものだと感じた。
笑って泣いて、ちょっと考えさせられもする。心地よい映画体験がこの作品にはある。