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娘がヤバい男と付き合ってしまい、命に危険が及びそうだ。そうなったらお父さん、あなたはどうしますか?本作では娘を守るために殺人を犯してしまったお父さん。しかしことはその一件で終わらず、家族を守らねばならないという強い想いのせいもあり、抜けられないところにはまり込んでいく。
この作品は雑にまとめると「命をかけて家族を守るお父さんのお話」という家族愛ドラマなのだけれど、そこに殺人という極端な要素と、それに絡んで暴力団組織との闘い、みたいな非日常的な話が盛り込まれてくる。加えて、父親が殺人まで犯して守ろうとした娘が成長してなんと捜査一課の刑事になるという展開である。要素もりもりであり、あまりにも突飛な設定でもあり、全般にストーリーの展開には説得力がない。次々に繰り出されるエピソードがどれも突拍子もなく、そんなことが本当に可能だろうか、という視点で見るとあらゆる部分がどれもご都合主義的に映る。ある意味、ゾンビ映画のようなものとして見たほうが楽しめるかもしれない。
家族を守るために犯罪に手を染めたお父さんとあふれる正義感で警察官になった娘。二人の傍らにいるお母さんが時折見せる危うさが一番怖い。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
娘の彼氏が反グレ(と称されているが実質暴力団の一員)で、娘の命に危険が及びそうになったため、お父さんがこれを殺してしまう、というのが根底の事件。相手が相手だけに、その彼氏を殺してそこで終わりとはならず、図らずもややこしいことに巻き込まれてしまう。が、お父さんうまいことやり、7年間事件は闇に葬られ、家族は何事もなかったように暮らしている。台風による土砂崩れで埋めてあった死体が出てきてしまい、この一家に危険が及ぶ、というのが本作のお話。
ではあるのだが、このお膳立てからしてすでにどうも違和感が満載なのだ。お父さんはおもちゃのメーカーで営業マンをしているサラリーマン。家はおしゃれな一戸建てで、お母さんは見たところ専業主婦。このような家庭で特にグレてもいない娘が、なぜ暴力団員みたいなのと付き合うようなことになるのだろう。この娘がグレて家出していたとか、そういう話ならわかるのだが、なんと彼女はのちに警察官になるのである。中堅サラリーマンの家庭に育ち、警察官になるような娘がなぜ暴力団のチンピラと付き合うようなことになったのか。この点からどうも納得がいかない。
どうもひっかかる設定で話が始まるのだが、これにとどまらず、あらゆる展開がすべて違和感だらけである。娘は警察官になったわけだが、かなり若くして(見るからに若い)捜査一課に配属される。警察庁の人事としてこれはあり得る話なのだろうか。あまりにも若すぎるのではないかという気がする。劇中では「優秀だから」という一言で片づけられるのだが、彼女の優秀さが垣間見えるシーンはほとんどない。格闘に強そうな見せ方はされているが、なぜ彼女が格闘に長けているのかの説明はない。このような人がなぜチンピラと付き合っていたのか、本当に疑問である。
さらにありとあらゆる展開が「そんなことある?」の連続だ。都合のいい能力を持った人物が都合の良いところにいて、そいつのおかげで都合の良い展開になる。すべてがストーリーを意図通りの方向に進めるための布石に見えるのである。
世界観が普通の世界、いわゆる我々の暮らしている世界と同じように見えるため、どうしてもリアリティを求めたくなってしまうのだが、この作品にはリアリティのようなものは一切ない。やはりこれはゾンビ映画のような完全に架空の世界を描いた話として見たほうが良い作品なのかもしれない。