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毎週映画館に通っているのに、この映画の予告を見た記憶がない。今回新作のリストを眺めてタイトルだけでこの映画を選び、まったく知らないまま見たのだが、何度も胸がいっぱいになって感情が溢れるような、とてもステキな作品だった。ぜんぜん宣伝をしていないせいなのかお客さんはまばらだった。この映画、ぜひもっと多くの人に知ってほしい。
主人公は12歳の少女。子どもから少しずつ大人になっていく年頃。幼い頃、心の中にいたイマジナリーフレンド。それは成長とともに次第に必要なくなり、やがて忘れてしまうもの。でも、大人には本当に必要ないのだろうか。自分が負けそうなとき、折れそうなとき、もしあのイマジナリーフレンドがそばにいたとしたら、彼らは勇気をくれたりしないだろうか。
この映画、主人公は少女だし、サムネイル画像を見ればなにやら大きなモンスターみたいなのが写っているしで、「子ども向けでしょ?」と思われるかもしれないけれど、かつて子どもだったすべての人にお勧めしたい映画である。大人になる途中で手放してきたもの。それは不要なものばかりではなかったかもしれない。この映画はそういう何かを思い出させてくれる。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
主人公の少女は母親を亡くしており、今度は父が手術をするために入院することになった。父子二人暮らしで父親が入院するため、少女は祖母のところへ預けられることになる。幼いころに過ごしたことのある祖母の家で、少女は不思議な男に出会う。
一緒に過ごしていた子どもが成長してしまったことで必要とされなくなったイマジナリーフレンドたちが閉鎖された遊園地の地下に集まっていて、彼はそのイマジナリーフレンドたちに、新しいパートナーの子どもを紹介する斡旋業者みたいな仕事をしている。少女はこの仕事を手伝うことになるのだが、新しいパートナーを斡旋するのではなく、元のパートナー、すでに大人になっている彼らのところに、イマジナリーフレンドたちを返すことにする。この仕事の変換がこの作品の核になっていると思う。これが普通に新しいパートナーに斡旋するだけの話であれば、ファンタジックな子ども向けの映画であったろう。でもすでにイマジナリーフレンドを必要としなくなった大人のもとへ帰すという無理難題にしたことで、作品の深みが激増した。
一般にイマジナリーフレンドは心が成熟していけば必要なくなり、やがて忘れてしまうとされている。でも大人には本当に不要なのか。忘れてしまったものは永遠に思い出されることはないのか。この作品はそこに注目して、ひいては「思い出とはどういうものなのか」といったことまで掘り下げていき、思い出を想起させるトリガーを用いることでイマジナリーフレンドを元のパートナーのところへ帰していく。
ラスト、主人公の少女自身がイマジナリーフレンドを思い出して見事に着地し、さらにエンディングでは作中に登場したイマジナリーたちが作中の登場人物のところへ帰れたという描き方になっていて素晴らしい。八方見事に収まるハッピーエンド作品ではあるが、心を丁寧に描いているのでシンプルに感情を揺さぶられる。こんなに良い映画なのに露出が少なすぎてまったく知らなかった。この映画をもっと多くの人に知ってほしい。この記事がその一助となればとても嬉しい。