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「アンナチュラル」と「MIU404」二つのドラマ作品と共通する世界で発生する爆弾テロ事件。これを、それぞれの作品の登場人物を絡めながら解きほぐしていく。二つのドラマからのスピンオフ、まったく新しい人物を主人公に据えた新しい作品、スリリングな展開と気持ちの良い謎解き。エンターテイメントに必要な要素を全部盛り込んだ上、さらに現在の社会が抱える闇の部分にもスポットを当てて警鐘を鳴らす。あらゆる部分が緻密に組み上げられ、見事なバランスで結実した稀有な作品だと思う。私は元になっている二つのドラマをどちらも見たことがないけれど、本作を楽しむうえで何ら問題なかった。二手、三手ひっくり返る謎解きも面白いし、巨大ショッピングサイトと物流の抱える問題のリアリティも興味深い。
主要俳優陣の芝居にも大変な説得力があり、大規模サイトを狙った爆弾テロというスケールの大きな話でありながら細部にリアリティが満ちている。顧客最優先というスローガンに隠された本質に血の気が引いていくような感覚を覚えた。この作品はフィクションだが、今の現実にはこれとほとんど変わらないものが実在している。元の世界に戻ることはないだろう。(映画ライター・ケン坊)
ケン坊がさらに語る!WEB限定おまけコラム
この記事には映画のネタバレが少々含まれているので、まだ映画を見ていない人はその点をご承知おきの上で読んでください。
驚くべき完成度だと感じた。ラストがちょっとばかり綺麗にまとまりすぎた感はあるものの、様々な要素を取り込んで散らかることなくまとめ上げられている。スピンオフで参加しているキャラクタたちは捜査上で違和感なく入ってくる。もちろん彼らが入ってこられるような事件の展開になっているわけだが、そこに取ってつけたような理由付けはなく、きわめて自然に合流している。主眼となる事件についても、冒頭の一発目の爆弾だけがド派手に爆発しすぎていて、映画の演出的に一発目は派手な方が良いが、他と差がありすぎるのではないかと思いながら見ていたのだが、しっかり必然性があって終盤で回収され、唸らされた。かように、この作品はエンターテイメントとしてこうしたい、という作り手の都合を、いかに自然に作品のストーリーに絡めて持ち込むか、ということを熟慮されている。変なご都合主義にならないように要素が配置され、張り巡らされた伏線が丁寧に回収されていく。
加えて、描いているのが世界規模で展開する巨大ショッピングサイト。もちろんフィクションとして架空の会社になっているが、これはもう誰が見ても某あれである。アメリカに本社があり、日本には日本法人が設置されている。巨大倉庫を自社で持ち、各種運送業者と契約を結んで物流を支配している。一社で扱っている物量が巨大すぎるため、運送会社は必然的にこの巨大な顧客の言いなりにならざるを得ない。なぜなら彼らを失うと売り上げが激減することになるからである。この物流を襲った地獄絵図は多少改善がみられるものの現在も進行中の問題としてたしかにある。本作は今の消費者から見るととても便利なこの世界が、どういう努力によって成立しているのかを垣間見せる。居ながらにしてなんでも手に入る時代。家から出なくて済む人が増えたのは、家まで届けてくれる人がいるからである。この便利な社会の要である物流を担う人たちが、いったいどういう待遇で、どんなふうに働いているのか。
送料無料がはびこることにより、「配送」という仕事の価値が見えづらくなっている。この作品はエンタメを軸に据えながらも、この大きな問題にしっかり光を当てている。運送会社で働く人たちに魅力的な人を配置することで、彼らの虐げられた状況に寄り添いやすくなっている。本作では一応の改善を見て着地したわけだが、実際問題、その程度の改善では焼け石に水であるということもちゃんと描かれている。配送のプロフェッショナルたちの仕事に対し、対価を払うのは当然ではないだろうか。我々は「送料無料」という事態に、もう少し疑問を持った方が良いのかもしれない。